テキスト内容紹介目次
テキスト・バックナンバー
購読案内

桑原専慶流 いけばな テキスト 内容紹介

テキストNO.427
1999年1月号
文 十四世家元 桑原仙溪
全頁の内容をご紹介します







1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

P1
janomematu to guroriosa no nageire

松にもいろいろあるけれど
 <表紙の花> 和則
  花材 蛇の目松 グロリオーサ
  花器 暗褐色釉角瓶

 お正月には松がつきものだが、昔から祝言第一の物、百木の長とされている。そしてやはり葉の青さが一際美しくなる冬にこそ松をいけたい。
 「立花時勢粧」にも松は菊の終る頃から紅梅が咲きだす頃までが一番面白いと書かれている。
 ご家庭では葉色鮮やかで勢いのある若松が似合うが、松にも色々あって葉に白斑・黄斑の入る蛇の目松などは、他の松にはない独特の優しさが感じられる明るい印象の松である。
 蛇の目松の大枝に真紅のグロリオーサを添えて新春を明るく迎える花とした。(文、和則)
top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P2
matu to ume no seika

初音
源氏・拾花春秋より

  花材 小松 紅梅
  花器 朱塗渦巻文螺鈿角瓶

 新春、初子の日に、小姫君が庭の小松を引いている。そこに母の明石の上から贈物が届いた。(今年の旧暦初子の日は新暦の二月十七日)
 小松の枝に小さな鶯をとまらせた作り物に果物やお菓子、そして手紙として和歌が添えられていた。

  年月をまつに引かれて経る人に今日うぐひすの初音きかせよ

 別かれて住む八才の小姫君への便りである。
 平安時代に宮廷で育った子供ならこの和歌を充分理解し、返歌を作るぐらいの素養はあっておかしくない。
 文化の程度を計る物差には様々な種類の尺度がある。現代は一体どんな物差が使われているのだろう。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P3
janomematu to guroriosa no nageire

水引細工
  花材 紅薔薇 ピンク・金銀水引細工
  花器 瑠璃釉細首花瓶

 結納と看板のかかった店の飾り窓、金銀紅白の水引で作られた松に梅や竹の立派な細工物が恭しく置かれている。一体どんな風に作られているのか、不思議な思いで暫らく立ち止まって見入ってしまう。
 京都の結納屋さんは、長い年月をかけて完成された様式、そしてそれを現在でも作り上げる技術を持っている。
 そんな店に行って、こんなものが欲しいのだがと相談すると、蓄積されたノーハウで色々なことを教えてもらえる。
 作例の水引細工の花も、素子がお店の御主人と考え合って出来上がった一輪である。いけばなという歴史の古い文化には、この水引細工の他にも違和感なくとり合わせられる洗練された細工物が何種類もある。折にふれてテキストにも使ってみたい。
 水引細工をとり合わせたこの小品花は、新年の玄関にでも、そっと飾ってお客を迎えたい。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P4
janomematu to guroriosa no nageire

コキア
  花材 ミニチュア・ローズ コキア
  花器 小型赤ガラス鉢

 白蓬(しろよもぎ)とよく似た銀緑色のコキアはアカザ科マイレアナ属の植物である。
 アカザ科の植物は乾燥地や塩生地に多く、千五百種以上が世界中に分布している。
 アカザ科の植物は私達にあまり縁がなさそうに感じるが菠薐草(ほうれんそう)や不断草、赤蕪もこの仲間だし箒草(ほうきぐさ)の綺麗な紅葉もよくいけばなに使われている。
 コキアはアカザ科に多い塩生植物で、原生地は地中海沿岸、西南アジアでオーストラリアの塩分の多い地帯にも高さ1-2メートルに育っているそうである。銀緑色の花材は此頃種類が多くなったのと、大概の色と差障りなくとり合わせられるのでよく使われるようになった。
 作例の小品花では、ピンクのミニバラと花器の赤をひき立て、しかも全体のトーンをやわらげながら花型を整える役に立っている。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P5
janomematu to guroriosa no nageire

美男葛(びなんかずら)
  花材 美男葛 白椿
  花器 備前焼風焼締花瓶

 実葛(さねかずら)とよぶより、通称の美男葛という名前の方が親しまれているのではないかと思う。
 私の昔住んでいた家の裏庭の藤棚に、藤の代りに美男葛を這わせていた。毎年初冬になるとつやつやした赤い実が沢山下がり、その向うに、まだ小さな青い実をつけた夏蜜柑(なつみかん)の大きい木が植わっていた。
 美男葛という名前の由来は、昔葛から出る無色透明な粘液を整髪料として使ったのでそうよばれるようになった。ところが花材として使う場合、この粘液が切口でかたまって導管をふさぐので、切口を焼いてアルコールにひたしてからいける。
 初冬の花材とよく合う蔓物である。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P6
janomematu to guroriosa no nageire

姫南天 水仙
  花型 二種挿真の草型
  花器 淡茶色紬水盤

 実の生(な)った姫南天は少ないようだが、名前通り小型なので、いけておいても仰々しくないところがこの花の良さだろう。
 真副胴に内副の四枝を姫南天。水仙は留と控の他に留の沈みの三枚葉を低く目立たぬようにそえておくだけで、葉のひろがりが大きく高く立ち上がった南天とのバランスがとれて七枝の生花となる。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P7
janomematu to guroriosa no nageire

珊瑚水木(さんごみずき) 紅白山茶花
  花型 行型二種挿
  花器 上部緑粕花瓶

 珊瑚水木は晩秋に落葉して、初冬からの冷えこみに晒さら(さら)されると枝の赤みが鮮やかで深い紅色に変る。
 花屋では紅珊瑚ともよんでいるが枝物花材がだんだん少なくなってきた現在、珊瑚水木は栽培効率が良いのか昔より沢山出まわっているようである。
 投入にも盛花にもよく使われているが、生花としても冬の木肌の鮮紅色が冴えているので留側に配色の良い花材をとり合わせれば美しい生花になる。
 作例では白と赤の山茶花を留にそえている。
 花器は白竹の寸筒では寒々した感じの生花になってしまいそうなので、下部が茶色みがかった灰色で、真中から上が淡緑色の紬薬のかかった陶器の花瓶を使った。
 珊瑚水木の枝は大体直線状で柔軟なので撓めはよく効く。ただ柔軟で折れにくい代りに撓めが戻りやすいので、皮を浅く傷つける程度に切り撓めする。
 枝からは、小枝が同じ高さの所から二本が左右に対生している。上の方は短いのでそのまま残しておくが、下部の長い分かれ枝は、正面から見て前後になるように使わないと交差してしまうので、邪魔になる枝を整理しながらいけて行く。
 副は枝先が細いので、少し長くしっかりした分かれ枝の出ている所から上の枝先を切りとって使っている。副は枝先までそのまま使うとするなら副流しにいけた方が花型の調子はよくなる。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P8
janomematu to guroriosa no nageire



源氏・拾花春秋
 文英堂さんが先代の『拾花春秋』を探し出して、これを現代に生かしてみませんか、と云ってこられたのは三年以上前のことだった。

 最初は文英堂さんも私も写真でと考えていたのだが、生花なら絵の方がよさそうである。
 だが絵の方は全く素人の私にどんな絵が描けるのだろうと自身のありようはなかったのに、気楽な性分であっさり引き受けてしまった。
 解説の詳しいことは、誰か国文学者が書いて下さるのだと思っていたところ、田辺聖子先生にお願いしてきましたということである。
 えらいことになってしまったと考え込んでしまったが、今更どうにもならない。そのうち一度おひき合わせいたしましょうということになってはじめて田辺聖子さんのお人柄にふれたのだが、そこで何とか努カして多少なりともましな絵を描かなければという決心がついた。
 そこで、先生の源氏物語の御著書を三冊頂いたのだが、源氏物語の、そして平安朝の大宮人の世界とはこんなものだったのかと今迄の想像、それは日本史の表面をかすっただけのものであることを知った。
 田辺先生は紫式部になり替わってその世界を描いておられるような気がする。国文学の先生の解説では私もこんなに自由な生花の絵は描けなかっただろう。
 お受けした頃は「花ふたり旅」の出版と、その記念いけばな展の準備にかかりきりで、ようやくその年の七月から絵を描き始めることができ、秋に仕上がった。
 久しぶりに一所懸命勉強させて頂いたことを田辺聖子先生、そして文英堂の皆さんに本当に有難いことだったと申し上げたい。
 そして流内の皆さんには楽しく読める一冊であればと念じている。


 左の写真は、京都新世代いけばな展に出品した、家元の立花です
 花材 美男葛(びなんかずら)、梅苔木、水仙、樅、松
 花器 灰色釉長方形花器

花展の報告、予告などは省略いたします。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P9
janomematu to guroriosa no nageire

寒木瓜(かんぼけ)
  花材 朱木瓜 糸菊
  花器 マックム焼花瓶(オランダ)

 木瓜は植えておいても中々大きくならない成長の遅い木である。
 二系統あって、日本の山野に自生している草木瓜と、中国から平安時代に渡来したのが木瓜である。
 草木瓜は30cmから1mぐらいまでのびるが、長い枝は横に這って曲がりくねって高くならない。
 家の庭に、まだ先代の居た頃植えた草木瓜は未だに大きくなったようには見えない。
 中国から渡来した木瓜も生長は遅いが、かなり大きく育つ。師範の吉田慶史さんの家の庭の朱木瓜は太さは根元で4cmぐらい。高さは2・5mになって15本ほどが株立ちしている。春には真赤な花が見事に咲く。
 薔薇科の花木として桜、梅、桃、木瓜等が花材として代表的な種類で花は五弁が基本で形もよく似ているが枝ぶりにはそれぞれの持味がある。最も素直なのが桃で、次が桜、梅は直線的な交差で凛々しさがある。
 ところが木瓜の樹形はどう云い表わせばいいのかわからないような姿をしているが、そのユニークさが良さでもある。
 作例では木瓜の枝形の不規則性をそのまま現すように構成し、菊の花で柔らかさが加わった。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P10
janomematu to guroriosa no nageire

紅葉のメカニズム
  花材 雪柳 赤椿
  花器 手付竹籠

 花は開花期の調整ができる。例えば四月下旬に咲く里桜でも、二月初旬に切って温室で加温すれば三月にいけることができる。
 だが紅葉だけは季節の巡りを待たなければならない。
 鮮かに色付くためには、温度、光、湿度の三条件が揃わなくてはならない。最低気温が8度以下になると紅葉しはじめ、5〜6度以下で急速に進む。その上日中は光の状態がよくて夜に急速に冷え込むことで葉のアントシアン色素の合成が進む。
 日光を充分に受けるためには空気の澄んでいることも大切な条件で、更に適当な湿度も必要とする。
 又銀杏(いちょう)が黄葉するのは気温の低下で葉の緑色の色素が減って黄色色素の割合がふえて黄変する。
 いけばなの方では早くから日光と紅葉のメカニズムに気付いて、楓は梢の方から色付いて行くのを知っていた。気温が下がる頃、まず日光をよく受けた梢の方から紅葉しはじめて間もなく上の方が落葉して下の葉にも日光が当たるようになってはじめて中程、下部へと紅葉が進む。立花や生花での紅葉は上部が紅葉、下部が緑葉とするのは、そういう生態を知ったことから始まった。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P11
janomematu to guroriosa no nageire

出逢わせる
  花材 マーガレット カンガルー・ポウ スイートピー
  花器 アラバスター・コンポート

 カンガルー・ポウはオーストラリア西南部が原産地。
 スイートピーはイタリア半島の南の地中海のシシリー島が母国。
 マーガレットの故郷は、モロッコの沖合いカナリー諸島。
 生まれも育ちも違う三種の花が、遠く離れた日本で、トルコ産のアラバスターのコンポートに、それぞれの表情で仲良くおさまっている。
 ところで英和辞典でマーガレツトの項を見ると「女子の名前」としか書かれていない。花の方は少し下にマルゲリート(Maruguerite)として、パリのデージー(Paris Dasy)・雛菊の一種と記述されている。
 イギリスでは十五世紀、ヘンリー六世の王妃マーガレットが、それまで牛の目、或はドッグデージーとよんでいた菊科の花(レウカンテマム属)を自分の紋章にした。その後牛の目やドッグデージーをマーガレットとよぶようになった。
 一方マルゲリートという花名は、十六世紀にカナリー諸島からフランスに渡来したフルテッセン属の菊科の花をパリ近郊で栽培したマルガリート・ド・ヴァロアに因んだ名で、イギリスには十七世紀末に渡った。
 これを現在では一般にマーガレットとよんでいる(A・M・コーツ著 花の世界史)
 日本には十七世紀末に渡来し茎が木質になるので「木春菊」とよんだ。

top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 





















P12
janomematu to guroriosa no nageire

石化大豆
  花材 石化大豆 コキア バンクシア
  花器 花崗岩丸彫り花瓶

 石化大豆は茎が平たく幅広に変形しているが、大豆というより枝豆と云った方がわかりやすいと思うが、要するに枝豆の奇形品種である。
 以前にはよく見られた花材だが、最近あまり多くは売られていないようである。
 石化植物のことを帯化植物ともいうが、茎、或は枝先が平たく変形する。
 いけばなにもよく使われていて、石化大豆の他に石化金雀枝(せっかえにしだ)、石化杉、石化鶏頭、石化玉羊歯(せっかたましだ)、石化柳等がある。
 久しぶりに立派な石化大豆を見つけたので、とり合わせに何がよさそうかと花屋の店の中を見まわしていると、黄花のバンクシアが目についた。異様な姿の石化大豆には、おとなしい花は似合いそうには思えない。
 バンクシアは多くの品種が輸入されているが、このピンクッション型の黄花品種は緑の葉に艶があって美しい。石化大豆の枯れた色ともよい対照になる。
 花型として石化大豆の重みを見せるための立枝、波状の曲線を見せる横枝で構成し、配色としてそえたバンクシアだけでは重苦しいので明るく軽い色のコキアをそえた。
top 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
テキスト内容紹介目次
テキスト・バックナンバー
購読案内
>>>> Home


このサイトに掲載されている全てのコンテンツ(記事、画像等)は、桑原専慶流家元の承諾なしに無断転載することはできません。
copyright 2002 KUWAHARA SENKEI SCHOOL all rights reserved.
http://www.kuwaharasenkei.com