9月号
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趣味の花として蓮を考えてみますと、これは仏教の花だと思っている一般の人達の想像以上に、盛んに蓮花を楽しんで栽培した時代があります。ちょうどこのごろの朝頻のように江戸末期から明治初年には蓮花の品評会が盛んに行なわれ、固芸的にも珍しい品種が作られてひろく流行したということです。明治37年7月に発行された「盆地蓮花集」という書物には62種の蓮の花が紹介されております。また江戸末期には百種以上の園芸品種があったことや、その品名の詳細が石井勇義氏編の「園芸大辞典」に記録されています。散5華げちりれんげ「散蓮華」という言葉がある。散り落ちた花びらの意味だが、花を切りとって活けておくと三日程度ではらはらと音もなく散り落ちる。その落ち花の一片をみると、自然の造形の美しさをしみじみと感じるものである。まことに「散蓮華」の形を写して食卓のス。フーンを作った、昔の人の風雅には感心させられる。仏教の儀式の中に「散華」というのがある。仏に供祗するために蓮の花びらに校して作った紙製の蓮華を「華皿」に盛り読経のうちにまき散らす形式だが、仏教の中では蓮の花が尊敬の対象になっていることは一般にひろく知られている。この写真の蓮のいけばなは、こんな仏教的な考え方から作ったものではないが、花びらの美しさを作品の中にあらわそうとした、意匠的ないけばなということができる。口もとの長いガラス器は赤く掲色で、形が少し傾いているところが面白い。蓮の花を一木、短かく挿して下に花びらを四つ散らして装飾にしてある。いけばなとしては単純なものだが、意匠という意味からみると散辿華のことも恩い起こされて、今散り落ちたばかりの花びらに、美しい装飾効呆が感じられる。6

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