8月号
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さんご珊瑚の海〈9頁の花Vこの赤い珊瑚は三十年前に、素子と伊豆の海岸で買った。何という名前か知らないが良い色なので五年か十年に一度とり出して使っている。だから前にも見たと想い出して下さる方もおありだろう。赤い珊瑚に白い珊瑚を積み重ね、紫色のデルフイニュームを立てたこの花ができ上がって、深い赤紫色の背設の前に置かれた。光の調節をしながら眺めていると、今迄に見てきた海の中の景色が思い浮かんでくる。私は子供の頃からよく海に潜っていたが、最後に潜ったのはもう二十年も前、ニュlカレドニアでのことになる。潜るといっても私のは簡単なもので、耳栓をして水中眼鏡をかけ、石を抱いて沈んで行って、六・七れの海の底についたら座りこんであたりを見まわしているだけのことである。三分ぐらいは息をとめていられるので色とりどりな光景をゆっくり眺めていられる。こちらが静止しているので波に揺れるもの、近付いたり遠ざかったりする魚の姿、光の動きがよくわかる。涼しくて静かで気持ちのよいものである。素子がこの花をいけてくれたお蔭で海の中の感触も想い出すことができた。花材デルフイニューム9

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