8月号
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l—随想の中にc ハナショウブc濃い紫色のハナショウプに白色の洋闇(デンドロビューム)をつける。日本花と洋花の配合だが意外に調和がよい。花器は暗青色の陶器だがこれまであまり使わない花器で、活けにくい花器のびったりとした感じで品格のよい瓶花が出来た。さらりとしたさわやかな感じがよいと思う。足もとがすいているので明るい感じに見られるのだろう。デンドロビューム・フォーミディブル―つである。写真でみる様に宇治川の山陰にして菖蒲花舟に植えしを水に浮けたる中村憲吉の和歌である。青葉の茂る宇治川の畔につないだ朽舟に花菖蒲が咲いている情景、おそらくそれは白い花か紫か、流れをみつめている花菖蒲の花、古戦場に咲く菖蒲の花。そんな心の歌であろう。その宇治橋を渡って私達の車は宇治市の南郊にある神明の鳥烏氏の農園へ。今年もその季節になった六月十三日、ちょうど咲きごろの花菖蒲をかなり大量に切らせてもらったが、帰宅後、早速花包みを解いて次から次へと活けて、その翌朝午前七時まで夜を徹して写真にしたのが、この月号のテキストである。花菖蒲は花あやめともいわれ、古い書物によると「花勝見」と名づけられていた時代もあった様である。古今集に、みちのくの浅香の沼の花勝見かつ見る人に恋や渡らむという歌があるが、野生種も多く私の記憶では八月に入ってからのことであるが、比良山のやくもが原の沼地に花菖蒲の枯実の群落しているのを見た。それとともにちょうどその季節の花の滞萩の紅色、沢桔梗の青色の花が就開であったが、この花菖浦の閲花を見る機会もなく今日に至っている。姉綺嘲風の「花摘み日記「今日は午前はフォロの廃墟でくらす事にしてその方に馬巾をかった。日光は廃墟の石柱や敷石の上にまばゆい許りに照ってその間に色々の花が咲き、特に菖蒲の花が目立って美しい。(中略)二千年前のローマの古跡で端午の節句をするとは妙な廻り合わせである。」ローマの花菖蒲をこんなに書いてある。宇治川の朽舟の中に咲く花菖蒲とローマの廃墟に咲く花菖蒲、いずれも伝統の中に咲く花といえる。5 瓶花と盛花に

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