7月号
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仙驚彩歳辞書の健忘の項をひくと、健忘l「よく物事を忘れること。忘れっぽいこと」。そして次ぎに健忘症として「記憶障書の一種。一定期間の記憶を再生できない症候」と記述されている。ここで不思議に思うのは、そんな症候、或いは病状に何故健康の「健という字が冠せられているのだろう。忘れるということに何か頭脳の生理上のプラスでもあるほのうだだいろうか。人は生きているうちに一地大な量の知識を記憶として蓄え続けてゆく。人間の脳には一定の容量があるのかもしれない。人によってその容量に差はあるとは思うが、生まれてから五十年ぐらいまでは、知識や記憶は多少整理しながらも、詰めこむ期間だろう。だが生まれてから六十年もたつと容量一杯になって、新しい知識が入ってくると、ストックの一部を消去しなければオーバーフローして知能は停滞してしまうだろう。或程度まで知識の量がふ、えてから必要なことは、それまでに得た知識をまとめる作業である。不必要なものは弾き出して自分自身を語れるようになりたい。私の場合とりとめもない知識の集積の中から、使えそうな端切れを集めたパッチワークしかできない。健忘であれば、それも可能なのだと喜んでいる。健忘できること{由競11

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