6月号
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京都東山の南、足びきの丘が低く連なって、やがて桃山につづくのだが、清水から泉涌寺・東福寺・稲荷山と名所旧蹟が押しならんだ様につづいている。最近、京都の寺院は観光ばやりとでもいうのか、どこへ行っても雑踏の人ごみと車の往来がさわがしく、寺院の静寂というものが段々なくなっているのは残念である。東福寺は京部市の南部にある臨済宗の大本山で、二三六年藤原道家の創建になり、洛北の大徳寺と同じ<臨済宗の代表的な大寺院である。東西南北十数町に及ぶ広い境内の中に、広大な堂塔伽藍が立ちならんで雄大な景観と、また一方には風雅な自然、素朴な情紹を今日もなお失なわない清浄の境地でもある。この寺の築地塀に添って大市信吉氏のお宅がある。東福寺は紅葉の名所として有名であるが、寺院の中を流れる「洗玉潤」という谷川があって、これに「偲月橋」「通天橋」「臥雲栢」という橋があり、このごろは渓谷をおおうように緑の楓が群生している。五月に入ると楓の若葉がいっせいにひろがって、道も人も緑の中に包まれるように感じられ、また小鳥のはばたきに耳を傾けるような静けさがある。この臥雲栢の畔に大市氏のお宅があって、今日は新緑の庭を背景にして、いけばなの写真をとり「緑の庭といけばな」といった感じの。ヘージを作ることにした。このお宅は家屋を中心に三方の庭にいっぱいにひろがった緑の楓、その樹間に苔の緑が下地をおおって実に見事である。形のよい古い茶室があって、全く緑と光りと清屁とが閑寂の感じをつくり出している。Rこれは二階から見た景色。前に野楓と通天もみじ(三つ葉)の群りがあって、その少し向うに東福寺の徴塔の一部が見える。朝夕は鐘の音が樹間を伝わってきこえるまじかである。c すまいといけばな緑いっぱいの中に閑寂のすまいがある@ 10

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