6月号
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る空気の中に、翁の能が始まりました。楽屋で神洒をいただいて後、翁、千歳、三番三の順位で並び、切り幕が引かれると、この絵巻ものの列は橋がかりに入って、舞合に向けて静かに静かに進むのでした。心も引きしまる思いをして私もその柏がかりを歩いたのです。舞台に入って後見座に後向きに座り、これより翁の舞が始まり「たうたうたらりらあ」という清舶な発声が始まります。舞台の前は20メーターほどの白洲になっており、その向うに定紋の襟のかかった見所があります。時刻になるとこの白洲の砂へ海水が満ちてくるわけです。伝統の粕緻とでもいうのか、歴史を背景にした国宝の舞台に座る私の気持ちは、私の私ではなくて、占い時代の大和絵の中のひとりのように思えて、一層、深い憾激に入るのでした。翁の舞が終り、千歳が「鳴るは滝の水」と謡いながら、大きく活気に澁ちた舞をまい、それが終るといよ③ いよ私の出番になります。翁が栢がかりから切り幕へ入ってしまうと、舞台の感じもすっかり変わり、これから第二幕目といった感じになります。第二幕目は三番三の舞を見るわけですから、これから約二十五分間、私(三番三)の独り舞台ということになります。三番三の舞は「揉の段」と「鈴の段」の二曲にわかれています。はじめの「もみの段」は足拍子の多い舞で、サラサラとした急激な舞の中に、種類の多い足拍子の踏み方があって、笛と小鼓、大鼓に調子を合せて動作をしながら、はげしい足拍子を連続してふみます。一般にさんばそうを舞うとはいわないで踏むといいますが、軽快な笛の調子に合わせた足拍子の而白さをいったものです。この拍子が少しでもはずれてはいけないのですから稽古も大変なのです。揉の段は激しい舞ですから老人では体力的にもむづかしいといわれています。「もみの段」が終わると、後見座④ にもどり着附けを変えます(物着)黒式の面をつけ、中啓を変えて千歳から鈴をうけとり、これから「鈴の段」となるのです。迫力に満ちた「もみの段」に比較して「鈴の段」は、優婉な典雅な舞といえます。黒式の面は老人の黒い面で、田畑を耕しながら五穀成就を祈る姿ですから、のびのびとした中に壮罷な舞を展開します。鈴を振りながら朗らかに舞い納めるわけです。R6 ,,, I I . • .,.~-一·;.__~· ~:.J\. ----←、~_,_,,i.l."'-

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