5月号
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彼岸桜やぶつばきさくらの季節が終ったころに桜の話もどうかと思うのだが、いけばなの中の面白い工夫のある「枝垂桜」の写真を掲載して、楽屋話のないしょ話を害いてみる。しだれざくらというと京都では平安神宮の桜、周山の常照皇寺のさくら、平野のさくらなど有名であり、京都御所の北苑にも紅枝垂の花が咲き、古雅な建造物と調和して美しい。昨年あたりまで京都三条河原町の雑踏の街路にそうて一本の枝垂桜が咲いていた。旅館の前の狭い植込みの垣根にそうて5メーターばかりの桜が1本、美しい枝垂れの花が咲き、京都の町らしい風雅を咸心じたものだが、いつのまにやらなくなったのは残念である。普通、しだれざくらを切る、ということは、心ないことでもあるし、花屋でも見かけることは少い。ここに掲載の写真は「しだれざくら、紅椿」の瓶花だが、これはほんとのしだれざくらではなくて、しだれざくらに見えるように工夫した、いわばイミテーションの瓶花である。三月の末から四月のはじめにかけて彼岸ざくらが咲く。その禍関の花を選んで生花の技巧で柔らかい枝垂れ桜を作る。花器の高いものを選んで、桜の枝をいくところにもわけて強くため、花器の口もとから下へさがるまで曲線を作つて垂れさせる。こんなにして作ると、ほとんど自然の枝垂桜に見わけのつかないほど形のよい枝垂れが作れる。この場合につぽみよりも祐開のもののほうがそれらしく見える。少しの工夫で災しいしだれざくらのいけばなが出来、普通の彼岸桜がずっと見栄えのする桜になるのは、全く面白い工夫だと自分で作りながら楽しむ。紺介、さくらの頃にはこれを作ってみるのだが、幾度やっても箭単に作れて面白い。副材に紅椿などをあしらうといよいよ雅趣があって山寺の庭に咲く桜のように思えて、この工夫も馬鹿にならないものだと、日画自懇している次第である。来年の桜の季節には特さん作ってごらんなさい(、そしてにやにやと笑ってごらんなさい。上手に活けた瓶花とは、また違った楽しさがあります。.. (専渓)毎月1回発行桑原専慶流編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1972年5月発行No. 107 いけばな

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