5月号
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三月下旬のニューヨークは、厳寒の冬もようやく終わり、朝夕はそれでも冷えるが、畳間の陽差しには春の訪れの近いことが予感できる。ヘリコプターに乗って上空からマンハッタンを見てみた。一昨年の秋、父と母が来た時には、ハドソン川三月のニューヨーク和則・樫子沿いに紅葉の樹林が続いていたそうだが(テキストm号)、広大なセントラル・パークでさえ、今はまだ茶色一色で、春の気配は感じられない。しかし、郊外の沿道には連れ’A麹MEA,が咲き、山ん菜しゅ英山の奮も見つけることができる。ニューヨークの春はこれらの黄色い花で始まるらしい。そんな外の景色とは対象的に、花屋には色とりどりの草花がおかれている。花屋は大小とりまぜて人の集まる場所には必ずある。ニュlヨ!カーが気軽に花を買っている姿をよく見かけるし、どの建物の中にも花が飾られている。しかしとりわけ珍しい花は無いようで、日本で手にすることのできる花の種類は、極めて豊富だといえよう。飾ってある花はその置かれた空間により大ききは様々だが、殆どが四方正面で多くの種類の草花や花木を混ぜいけにしてあり、あくまでも室内装飾の一部として扱っている。本のいけばなのように花一輪、枝一枝の表情を大切にし、四季の取合わせの風情を重んじるものではない。しかし、途中で入った紳士服店で、スタッフらしい二人の男性が、店内の一角に花を飾るため、額に汗して花をいれている光景に出会い、花を大切に扱うのは同じだな、いやはたして日本の男性がこんなに積極的に花に触れようとするだろうか、プロの私でさえ興味ある出来事であった。ニューヨークの人達は芸術に対して特に関心を持っている。セントラルパlクの西にあるリンカーンセンターには、オペラ劇場など演劇、音楽、舞踊のための建物が集っているが、その建設資金の殆どが一般からの寄付であることを見ても、その情熱をうかがうことができる。特に美術館の数は多く、その中でもメトロポリタン美術館は、ルーブル、ロンドンの大英博物館に並ぶ大美術館で、各古代文明の遺跡から現代美術まであらゆる芸術作品か集められている。私達二人の好きなヨーロッパ印象派の絵画を一堂に見られただけでも充分価値がある上に、広い館内でばったり出会う美術品の逸品に、いやパリのおうなしに感性を刺激されるところである。こんな美術館が近くにあればなと思う。ミツドタウンにある近代美術館では、現代アl卜の作品の前で小学校の生徒がのんびりとすわりこんで、先生の説明を熱心に聞いていた。学校の美術の時間なのだろうが、本当に羨しいかぎりである。ダウンタウンの一角にあるソlホl地区は、その昔、町工場の倉庫街であった。一九五0年代に工場が郊外へ移ると、アーティストたちが、工場跡や倉庫をアトリエ兼住居に改造して住みつくようになった。最近はそのソlホーも家賃が高くなり、アーティストは新たにイースト・ビレッジへと移ってきてはいるものの、連ねている。先日亡くなったアンディ・ウオ|ホルも、このソlホーの一画廊から世に出たのは有名だが、ソlホ!の画廊は新進アーティストを次々に発掘してきている。初軒あまりある画廊では、各々のオーナーの好みで選んだアーティストの作品を展示しているのだが、広い空間を充分に生かしてあるので、作品一つ一つにじっくり見入ることができる。そのため、作家の感性を直接ハlトで感じ、又その世界にひたれる、そんな空聞かそこにはある。いくつもの画廊を巡り、ジャンルソlホーには現在多くの画廊か軒を日8

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