4月号
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専沢チョコレート色に赤味を帯びたシンビジュームの花、猫柳の銀色の粒、クリスマスローズの黒く緑の葉を足もとに添えて写真の瓶花を活けた。誤い好みの中にしやれた憾じの花を活けてみたいもの、と息いながら軽い気持で活けたのだが、黄土色の花器に人れたこの花の配合は、少し変った感覚があつて楽しい瓶花が出米たと思う。この花器は腰高の上方にひろがりのある形の花器だが、これをさかさまにして使つてみると形も面白く感じが新しくみえる。こんな工夫をして花器を反対にして使うのも案外変った調子がみられるものである。この瓶花は特に変った形でもないし、材料が変つているわけでもない。しかし写真でみるようになんとなく而白い味わいがある。私だけのひとりよがりかも知れないが、たとえばランカシャの洋服生地にみるような、落若きのある中にエキゾチックな味わいが慇じられるように思うのだがどうであろうか。誤い好みの中にしやれた持ち味の花、これもいけばなの中の―つの美の系統だと息うのだが、たとえばシャンソンの軽快なリズム、その中にある特殊な格調は、日本の個性とは少し異ったものと思う。そんな趣味の花がいけばなの中にあつてもいいだろう。黒く掲色のフランス製の家具、イタリア製の陶器、渋い白にさびた青色で図案を描いたイタリヤタイルの色、こんな感覚も中々而白い味わいである。精進湖の宮十ピュウホテルで泊ったのは昨年の夏だった。すこし暗いほどの落着いた装飾のあるロビーから、明るい芝生のあるベランダをおりて庭づたいに湖畔へつづく小径を歩いて行った。黒々とした樹木の中に花坦があって、白いダリアの花畑、アイリスの紫が群つてその道を向うにみえる青い湖の部分をめざして、みなれた日本の風景とは別の美しい自然だった。私は花を活けながらいろいろなことを思い起す。そして私の花の中に面白い味わいがそれとなく作れてくるのを待つ。その瞬間を待つのである。静かな道を歩いて行った。それはいけばな褐色ョコレートの毎月1回発行桑原専慶流No. 106 編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1972年4月発行チ

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