3月号
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早朴の頃、実を包んだ褐色の皮が落ちると、光をもつ銀色の実が連つて美しい。猫柳は春のいけばなには風雅に味わいの深い材料である。素朴で野趣があり、また花器とあしらいの花によっては、意外な新鮮さを出すことのできる材料でもある。甑花盛花にも生花にもよく調和する、大変便利のよい材料ともいえる。俗に川やなぎといつて、山地の渓流の畔などに野生する種類も多く、これが改良されて園芸品種になり、その種類も随分多い。猫柳花花桑原専渓私達が普通、猫柳というのはこの写真にあるものだが、その他、まつ黒な実の黒柳、赤くやや黒味を帯びた紅柳、浅みどりの青芽柳、赤褐色の赤芽柳などが、私逹のいけばなによく使われる種類である。あしらいには椿、百合、水仙、菊などの和種の花が調和よく、またカーネーション、ラッパスイセン、バラなど洋花との調和もよい°銀色に光る実の色が明るい感じに見え、帳い味わいもあり、また新鮮にも見兄るという、面白い性格をもつている。猫柳と同種の潅木に行李柳(こうりやなぎ)というのがある。同じく川辺などに自生する2メートルほの立ち姿の柳だが、これを一般にねずみやなぎといつて、よく似た猫柳と区別している。猫に比較して鼠とは実に面白い名づけ方だと思う。猫という名のほかの植物を考えてみる。「猫じゃらし」というのは一名、エノコログサ(狗尾草)ともいつて野原に生えるいね科の草。「猫目草」ゆきのした科の多年生の草。「猫萩.」はまめ科の草で、蔓に淡掲色の軟毛が密生するのでこの名がある。「猫草」はオキナグサの異名で山地に野生する短い草花、全体が白毛におおわれているのでオキナグサと名付けられている。その他、猫の字を冠する草木は、他にもあるらしいが、くわしくはなお調べたいと思つている。しかし、材器以上の猫や鼠の名を冠した植物は、いずれもその姿、形がそれを連想するものであることが面白い。猫柳の中に大粒の実のものがあるが、柔かい軟毛はいよいよその感じの深い名前だと、その名づけた人の風雅を感じる次第゜さて、1月に入って猫柳をいけばなの材料に用いる頃になると、いかにも早春といった慇じを深くする。年ごとに迎える春ではあるが、梅よりも椿よりも、一層深く季節感を味うのは、温室づくりではない自然の野趣をもつ索朴な「猫やなぎ」であるからだろう。八湘大原のおばさん達が雪の中から、猫柳の大きな束を荷車にのせて私の家へ持つて来て呉れたのは、でに遠い昔のことだが、黒もじ、はたうこん、ちやがらなど、漸く色づいた春の山木を、庭にうず高く梢み重ねて、一束一束をおもりのついた綽はかりで目方をはかつて、買いとったことも、のどかな時代の佗い出である。今日、猫柳にすかしゆりをあしらつて瓶花を作る。花器は新しい様式の白い陶器だが、オレンヂ色の百合と調和して春らしい韮花となった。この百合は透し百合の中の「ちぐさ」という稲類。透し百合は花弁の間にすき合いがあるのでその名がある。す. ど. 毎月1回発行桑原専慶流編集発行京都市中京区六角通烏丸西入早春の瓶花猫柳すかしゅり白釉創作花瓶桑原専慶流家元1967年3月発行No. 48 •••••••• ••••• いけばな

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