2月号
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夜に入って降り出した小雨が軋の瓦をたたいて、ぽつりぽつりとかすかな音をたてている。あたりが静かなので小雨の音がはつきりときこえる。静かな夜なればこそ雨の音をききわけようとする心の落若きがあるのであろう。能の「絃上」の一節に「板屋をたた<雨の音はばんしきにて候ほどに、今こそ一調子になりて候」という言菓のあったのを息い出したが、ささやかなお話専渓これは須磨の油の邸屋の雨の夜に、琵琶をひくしずかな帖景だが、その古い伝説を心に浮かべながらテキストの最後の。ヘージの原稿を害く。しずかという言葉を没字で古くと、普通は「静」で、これはものの音さえもなく静まりかえった、そんな意味の静けさであろう。また別に、「閑」という字を古いて「しずか」と読む。これはあたりが静かであるという意味のほかに、心のしずけさ、しずかな梢紹、わびさびの感じを心に伝えてくる閑寂の袋地、そんな意味の、心の内部へしずけさとともに、美の伯紹を伝えてくる、そんな意味でないかと思う。さて、ここに一枚の写頁がある。少しくらい部屋だが、丸い窓際に座つて花を活ける美しい姿だが、花を活けてながめる、この人の心はまことにしずかなひとときであるに迩いない。小品の花であるから軽やかな気持で研けることができたのであろう。ゆったりとしたくつろぎが見える。いけばなの技訟とか約束だとか、それとはことなった目山な気持の閑雅というような忙紹の花である。いけばなの中にこのような、しずけさのある花、上手に祈けようなどと息わないで、なんとなく挿しこむような花も、また望ましいことである。心のしずけさが花に伝つて、ゆったりとしたいけばなが出来ている。家庭のいけばなには好ましい―つの姿である。まことに、静かな冬の夜の雨をききわけようとする、そんな情紹も、いけばなの中にとり入れたいものと息う。蔀やかに活けた花も美しい。技巧のすぐれたいけばなも美しいが、それとは別に、小品の花でも心に通うしずかな花があるものである。茶の花とはそんな心をもつ花であろうが、それが形式の中に組みこまれたように感じられたときには、花の自然の美しさやしずけさが離れてゆくに追いない。

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