11月号
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先日「花の色では、なにいろが一ばん尊いのですか」という質問をうけました。辟いという言葉の意味からすると、これは、すぐ伝統という感じに結びつくので、私は次の様に答えました。「今日では、花の色に対して、尊い色だとか、位(くらい)の高い色だとか、そんな考え方はなくなりましたが、古い花道では昔から桑原専渓の日本の花の中で、その固有色、又は代表的な色を諒ぶことになっています。例えば、かきつばたは紫、梅は白、牡丹は淡紅、百合は白、菊は黄、なでしこは紅、りんどうは紫、木迎は白という様に、普通常識で考えて代表的な色と見なすものを尊ぶ、ということになつているのですが、複雑な花の色を位づけることはむづかしいことであり、はつきりとした定めはありません。ただ、古い日本の常識として、紫色は位の高い色であり、赤、白も高い位をもつということは、歴史の上にもあらわれています。紫の庭(御所のお庭)だとか、四位以上の人の粋る紫の袖、紫の雲という様に、紫色は尊敬をあらわす色でありました。緋色の衣、白無垢のきもの、など、それぞれ儀式的な感じをもつていることはご存知の通りです。しかし、今日ではいけばなの上で、花の位を考えるということは、ほとんどありません」とりあえず、こんなお話をしておきました。さて、ますが、その中で、「黒」という色がほとんどありません。花が終つて実花の色は数知れぬほどあり(み)となったものの中には、まっ黒にみのる草木がありますが、黒なでしこ、黒しやくやく、黒百合、黒やなぎ、黒牡丹、黒ばら、黒ろうばいの様に、黒という名を冠していても、そのほとんどは、黒っぽい赤が人部分です。また、黒松、黒もじの様に、樹の幹のやや黒い樹木もありますが、いずれも象微的に名づけられた草木で、純粋の黒という色はありません。黒色の花があったら索晴らしいと息いますが、この望みは無理なようです。n、大阪ロイヤルホテルで、フランスのジバンシーのモードショウを見たのですが、数々の作品の中に、黒を使った衣裳が色彩的には一ばん俊れていると息いました。黒という色は一ばんシックで、他の色を引きたてる色だと思います。いけばなでは、花の色の黒はないけれど、花瓶、しきものなどによって黒色を加えることができます。花展の装樅などに、黒を用いることも必要だと思つています。松本清張の作品の中に「黒」という題字がよく使われていますが、これは賠い生活をあらわす意味でしよう。有名なスタンダールの「赤と黒」僧院の黒衣と、はなやかな軍人の赤い服にまつわる物語など、文学の中にある「黒」は、実に効呆的な「黒」であると思います。いけばなにも、絵側的な文学的なもち味のある色調をつくりたいものです。花の色毎月1回発行桑原専慶流No. 56 編集発行京都市中京区六角通烏丸西入て,からりとすがすがしい。明るい秋の色である。白と淡い紫のク)レクマの花を3本,3枚の緑の葉を添えて.新鮮な秋の感じが深い。花器は胄磁色の腰高花瓶。(盛花)すすきくるくま10月のはじめ,すすきの尾花は淡い褐色に光りをおび先桑原専巖流家元1967年11月発行いけばな

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