テキスト2001
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生花の内容に就て(四)昭和十一年十一口に云えば生花は花型の変化が尊ばれるものではなく平凡な花型でもよいから生花の内部より受ける感動の大きいもの程優れたものだと云えると思うのであります。された結果その研究的な態度から次に話題を変えまして、生花のいわゆる秘伝と云う事に就て少々申し述べたいと思うのであります。花を見ることが生花のすべてcあ秘伝と云う言葉は挿花に限らずあらゆる多くの芸術を通じて用いられる言葉であり近頃は婦人洋服を着こなす秘伝だとか、子供を健康に育てる秘伝だとか、例の婦人雑誌などで盛んに印刷される言葉となりまして実に大衆的な意味をもつこと、なり一種のユーモアさえ感ぜられる程くだけた感じの言葉となりましたが、省みて流儀花に於ての秘伝と云うと如何にも襟を正すような感じを起すものであります。そこで生花の秘伝とは何ぞやと云うことについて少し触れて見ることにいたしましょう。どの流儀に於きましても多くの秘伝が存在するものでありまして、相当な花道の修練を経た上で先生からそれを授けられるというのが、所謂常識的な行き方でありますが、尤も剣劇などでは例の宮本武蔵と吉岡無二斎とが何とか山の山中で、鍋蓋仕合を行って際どいところで秘伝の一部を授ける。ははあ今のが極意の必殺剣だな、と云うような具合で頗る賑かな話題となります。三世桑原専渓さて生花には多くの秘伝が存在しますが、その秘伝の本当の意義に就ては往々にして誤り伝えられることが多いのであります。これは生花の伝統が、その永い年月のうちに於きまして、余りにも大衆化いつしか事楽的となり、花道研究の真箇たる香を失ってたf美しいると考えられるようになり従って秘伝なる言葉はあっても形式のみが存在し、真実の秘伝の意義から遠ざかって屑ると云う変った現象となって居るものであります。そこで、こ、に更に秘伝とは何ぞやと日々花道をお習いになる熱心な皆様方も、お導きをいたします吾々花道家の人達も認識をはっきりさせる必要があると考えるのであります。秘伝とは、書いたものではなく、巻きものでも何でもないのであります。それ等は一つの形式である。それを申しあらわすところの便法に過ぎないものであります。秘伝とは読んで字の如く流儀に伝えられる奥儀であり重要な教えの事であります秘の字は略字であり秘の文字を用いることが正しいのですが、これの意味は只だ単に重要な教義を秘密にすると云う意味のみではなく大切な教えだと云う事が本来の意味であります実に大切な教えだから軽々しく口や筆にすべきでないと云うのが本当の解釈であります。10

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