テキスト1994
9/146

花それぞれの季節を知らない人が多くなった。その人達の想像を誘うようないけ花もこれから考えてみたいと思う。だが花だけはあまり栽培技術が向上して季節に逆らいたくない。これだけ地球上に人が溢れてしまった現代、その人口を養うために農業技術はもっと開発されなければならないだろうが、花だけは人間と自然の最後の懸け橋として、季節のままに、そっとしておけないものだろ、っか。冬を忘れてューリップ花器灰白色紬足付属壷明るい日射しを、つけた、大きな窓辺にいるような感じをつける配色のいけ花である。黄色の地に朱色の縞のチューリップは、菊の白きでより鮮かな色あいに見える。京都の古い型式の町家は表通りに面した側は格子に覆われ、奥の聞の中庭からの採光も決して充分とは云えない。落ち着いた件いは好きなのだが時には穆陶しくもなる。とくに冬は曇り日が多く、底冷えに閉じこめられたような気分になった時、こんな色彩の花がいけられているのを見ると、ほっと一息ついて、気分に明るきをとり戻すことができる。春を待つ華やかな一瓶である。花材チ白菊二種5

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る