テキスト1994
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明治時代の初期に建った私の家は、先代の没後私達が戻って住み始めた頃にはかなり傷んでいた。それから十五年近くの問、毎年のように、少しずつ手入を続けて来たが、仕事を心得た大工さんのお訟で京都の町家としての良さを取り戻したよ、フである。だが同じ直すとしても、見逃えるようになったというのでは面白くない。この家の建てられた頃の面影がどんな風だったのかを考えながら手を加えてきたのである。ひょっとすると百年以上昔に建てられたとさより良い家になったのではないかと自惚れたりしている。木造の日本家屋の良さは丁寧に使いこんでいるうち、年々しっくりした艶を帯びて行くことだろう。年々美観の部ちて行くコンクリート造りの建造物と述って、年月によって趣きが深まってくるのが楽しいのである。此頃、新聞や雑誌の取材が多いが、あまり広くないこの家でも、編集者やカメラマンは家の中の思いがけない一隅を見付け出して、そこを背設に私達のいけ花や、…枯らしの一面を紙面におさめて下さっている。住んでいると、あまり気にとめていなかった室内の一部でも、見る目が変ればこんな使い方も出来るのか教えられているようなものである。床の間8

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