テキスト1994
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「フリーダム・オプ・リパテイ」|ニューヨーク交友記|十一月二十五日、ケネディ空港に着陸し、タラップを降り、私は生まれて初めてあの憧れのアメリカ大陸への第一歩目の足を踏みしめました。今時、猫も杓子も海外旅行なんて国内旅行とさして違いなく感じるようになった時代に、若い者が古臭い事を云、っと笑われるかもしれませんが、所詮私は京都の古臭い家の生真面目な娘なのです。でもニューヨークという所は、どんな国のどんな人でも、初めて訪れる者をそういう気持にさせる不思議な説得力があるようです。そして私には人一倍その感じが強いのです。ニューヨークの魅力は多くの人が語り続けていますが、それでも語りつくせない事が、その何倍か隠されているらしい底の深い都会です。ご存知の通り、マンハッタンという街には、世界中の色んな固から様々な人達が乗り込んできて、独自の文化がまきに目と鼻の先でぶつつかり合う刺激的な空気が強烈に渦巻いています。その渦は、なんと云っても観光客が、これだけは拝んでおこうと思っている「自由の女神」、そしてニューヨークを象徴するビッグ・アップルという愛称が呼び起こしているらしいと思うのです。(ビッグ・アッgivingdayに、J・F・桑原はなThankslkグプルとは昔ハ|レムにあった酒場の名前だそつです)アメリカン・ドリームを映画のスクリーンの中だけでなく「自分のチャンスは自分の手で摺み取れ」と自由の女神がビッグ・アップルをちらつかせているのです。ニューヨークには、美術館やオペラ、ミュージカルにソ|ホーの現代美術のギャラリー、とにかく素晴らしい世界のhlが揃っていて、観光としてそれらを一通り見てまわるのも賢明な勉強でしょう。しかし、もっと深い面白きを味わうには、実際にニューヨークで生活している人と話しをして、その会話の中での発見や疑問をぶっつけてみるほどに、もっとニューヨークを知りたくなってしまうのです。まずはTalk、Talk、Taそれは人にもよりますが、マジソン・アベニューのすました階級意識の強い人達より、より広く世間を見つめてきた人。古いパーには必ずそんなマスターやバーテンダーがいて、その哲学的とも云える意見に客は敬意を払って耳を傾けます。私の泊っていた上流階級相手の格式の高いホテルのパlにジョセフというバーテンダーが居ました。彼は今年ω才になって初めて素敵な女性とめぐり合って近々結婚するのだと少し得意気にイタリア系独特の陽気で少し皮肉っぽい笑みを浮かべて語ってくれました。そのジョセフに毎晩ニューヨークで見たこと、聞いたこと、感じたことをぶっつけていました。彼の恋愛論や私のあやふやな人生論で話が進むうち、私が「貴方の少しお高くかまえた態度はこのホテルのお客の勿体ぶった白人的で私に孤独感を与えるわね。あのダウンタウンのあけっぴろげな人達と全然違う。でもハlレムではもっと孤独感を味わわせられた:::」と云うと、暫らく私を見つめて、「確かにその通りだ。君の言う事は正しい。でもそれがニューヨークなんだよ」と教えてくれました。ニューヨークというわくわくする街で張りつめた感受性で拾った見聞を毎晩彼にぶっつけに行きましたが、いつも彼は短い言葉で私の質問に傾聴すべき答を返してくれました。様々なニュlヨlカl達の喜びゃ悲しみ、愛と憎しみを見乍ら過ごした彼のようなバーテンダーは、さり気なく自分の経験に基づいた助言や意見を提供しているのでしょう。もし私がマンハッタンに住むとしたら客であるこの私を静かに見続けていてくれるジョセフのようなバーテンダーのいる店に毎晩その日のことを報告に行く様になるでしょう。私を含めた血気盛んな若者を少しずつ大人に成長させてくれるのがそんな酒場かもしれません。いつかマンハッタンに住んで、そんな人生の深みを垣間見せてくれる人にめぐり合いたいと思っています。5 ,

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