テキスト1993
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ウエンズヂイ九月の末頃、スウェーデンは中秋から晩秋へと一挙に季節が移り変って行く。短い秋だがその季節、澄んだ大気の中で濃縮されたよ、つな彩りに大樹が紅葉する。暗く長い冬は夜の季節でもある。スウェーデンの秋は、夜の季節に入る前の一瞬の夕映えのような輝きなのかもしれない。十月に入ると収穫感謝祭が各地で行われる。一度北ドイツの地方都市で収穫感謝祭に加わったことがある。面白いことに、その祭場は銀行の広々としたロビーだった。天井からは古くからの仕来たりに従って飾りつけられた麦の束が吊り下げられ、その下に市の主立った人々が集まって感謝の祈りを捧げていた。収穫祭が終る頃、北欧のスウェーデンではドイツより一足早く、もう冬仕度を始めなければならないようである。又狩猟の季節でもある。朝夕めっきり冷えこんでくると、山や森の濃い霧の合間にヴオーダン(ヴァイ、キング達の主神オlディン)が家来を連れて狩をしている姿が見られるという伝説が未だに生きている。ヨーロッパには未だにキリスト教以前のゲルマンやケルトの宗教遺産が受けつがれていて、文学や美術、ヨーロッパの歳時イ日は豊鏡の女神フライヤの日である。そして生活習慣の中に美しい姿を垣間見せている。云いかえればヨーロッパの古代人の心にしみこんだ自然のリズムはキリスト教的世界観よりも深いところで季節に従って律動し続けているのである。クリスマスツリーはケルトの遺風、水曜日はヴオーダンの神の日、金曜乾燥した中東の砂漠的風土に生まれたキリスト教は地中海を渡り、更にアルプスを越えて中部ヨーロッパから北へ浸透して行くが決して完全に古代習併を根絶やしにすることができなかった。私も若い頃はヨーロッパをキリスト教の一枚岩で成り立つ世界だと思いこんでいたが、決してそうではなかったのである。そしてむしろキリスト教からはみ出した部分に美しきゃ親しみを感じるようになってきた。〈表紙の花〉花材女れ郎ムもえ花しパンダ砂柑花瓶万葉時代、或はそれ以前から日本人の感受性に適った花として、野に咲く女郎花は代表的な秋草の一つであり続けている。この花の名には色々な字があてられているが、万葉の頃には労・ん飢即時総静島、蝦静志などと書かれていたが、秋の野で涼風に掠れているたおやかな姿にふさわしい字が選ばれて花器辰』,ヂ.r 2

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