テキスト1990
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私達は当り前の事として、ガラスのコップ(グラス)で水を飲んでいるが、日本中どこへ行ってもガラスのコップが使われるようになったのはごく最近、或は戦後の現象ではないのだろうか。私の子供の頃というと昭和初期になるが、夏の暑い日冷たい井戸水を大きな湯呑み茶碗で飲んだ記憶があるし、都会でも旧式な家では、冬の聞はガラスのコップはしまいこまれていたようである。ガラスのコップは夏に大人がビールを飲み、子供がサイダーを飲むための季節の食器で、火鉢程度のささやかな暖房の暮らしでは使いようのない物だった。つけ加えて云うなら昔のガラスのコップは熱湯を注ぐと割れてしまうものが殆どで、温かいものには陶器しか使えなかったので尚更不必要な食器だったのである。ガラスのコップがグラスとして意識されるようになったのは、冬でも部屋が暖かく、そして冷たい洋酒を季節を問わず飲むような生活が一般化してからのことである。身の廻りのすべてを季節と結びつけて暮らしてきた日本人の生活の中で、ガラス器は夏のものと位置付けられていたが、多分それは日本人だけの特異な生活習慣なのだろう。日本のガラス工芸の中にはガラスガラスのコ.. ップ2

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