テキスト1990
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花器京都の野山の紅葉期は十一月上旬になるか、北海道からは九月になると綺麗に色付いた七鼈か送られてくる。落葉樹は紅葉、或は黄葉すると間もなく散ってしまう。従って、いけ花としての命は短いか色々な工夫をこらして永もちさせようとするか決定的な対策はないようである。ただ太枝の方が葉に送りこめる養分の蓄えが多いので、細枝を使う場合にも太い部分を残していけた方が幾分か寿命か長いようである。又紅葉樹は上部の日当りのよい部分から紅葉して行くので一把の中にも色付いた枝と、まだ緑の枝がまじっている。紅葉をいけるのは‘その色をいけるということなのだから‘枝振りよりも、どの枝の色か最も美しいか見くらべてみなければならない。その上で花型をどのようにするかを考えれば良い。針葉樹は一般に落葉しないが、日本では唐松だけが落葉し、しかも黄葉するので落葉松ともよばれている。枝物。菊も本来の開花期を迎えると唐松と書かれていると、中国から渡来した松のようだか、古くはその産地に因んで富士松とか日光松とよばれていたのに‘江戸時代の植木屋か唐絵(中国絵画)の五葉松に似ているのでそうよんだのが一般化してしまったのだそうである。唐松は高さ30ぃいはどに真直ぐ生長するか、森林限界以上の高いところでは這松状に幹や枝か屈曲して山肌にへばりつくような姿になる。そのようないけ花に向いた唐松は富士山の五合目あたりに行くと見られる。花材としてよく用いられるのは‘初夏にエメラルド色の美しい新芽か出る頃と、晩秋の黄葉期で、富士山では十月の下旬がその季節である。この作例ではまだ黄葉していない唐松の緑と‘真赤な七寵の二色の鮮やかな対照をとりあわせてみた。かなり大きい枝の唐松なので、花瓶はどっしりとした安定のよいものを選んで横枝を右にのびのびと拡げてみた。その唐松に対して花瓶の口を七鼈の紅葉でかため、そこから左に軽い一枝をさし出したか、色彩の鮮やかさを見せると同時に右側との量的なバランスをとるため胡蝶蘭をとりあわせにつけ加えた。十月も半ばを過ぎると季節は晩秋に入る。初秋よりも花材の種煩も増える。紅葉、黄葉に沢山実をつけたあらためてその美しさに感じ入る。床の間にそっといけられた花にもどことなく静かな気品がただようのもこの季節である。花材酎厨(尉)話叩紅葉胡蝶蘭艶消濃紺釉耳付花瓶はいまつこらょうりAi釈紅菓と黄葉11

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