テキスト1988
105/144

おみ中えし九月になると、東福寺にある父の墓にコスモスを供えに行く。ただ「閑」とだけ彫りつけた赤みがかった鞍馬の自然石。後に植えた萩の花も大きく枝をのばした。墓前の杉苔の聞に挿しこんだ青竹の筒にコスモスをいけると、親孝行したような、少し嬉しい気分になってくる。父の好きだった花、コスモスと、好きだった字、「閑」を彫りこんだ鞍馬石は美しいとりあわせである。コスモスは比較的近年、といっても明治初年頃渡来した花だが、日本人の好みにあったせいか急速に普及し、現在では野生化して群落を作っているところも見られる。コスモスの花の可憐な美しさには誰でも惹かれるが、切りとっていけてみると案外と扱いにくく、いけ終っても見映えのしないことがある。原因は、なよなよした細い葉が多量についているためで、思いきって三分の一ぐらいまで整理し、茎の線を見せるようにいける。或は充分葉をすかした上で面の大きい観葉植物をそえて水際をととのえる。作例ではその代りに女郎花を下部にそえて軽やかな感じを出してみた。花材コスモス女郎花花器曇りガラス花瓶「閑」11

元のページ  ../index.html#105

このブックを見る