テキスト1987
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八表紙の花>2 秋海棠は、故郷の中国では古くから文人達に愛され、詩文や絵画にその容姿か遺されている上に、書斎のいけ花としてそのとりあわせについても記された書物がある。日本には寛氷十八年(1641年)にとりあわせの例として渡来したそうだが、もっと古い時代に渡来するか、或はもともと日本に自生していた花であったなら、萩や梅に負けないくらい多く万葉集に詠みこまれていたにちかいない。風情にあふれた日本人好みの草花である。0秋海棠そのせいか、渡来した直後の秋海棠を俵屋宗達が描いているが、その大和絵が違和感のない草花として扱われている。約九百種ある秋海棠科の植物の分布域はほぼ熱帯に限られており、秋海棠以外はベゴニアの名称で通っている。又秋海棠属の中で、日本の戸外の気温で越冬できるのは秋海棠だけで、温暖な南西日本では野生化していることもある。花色は本来淡紅色だが、殆ど白に近いものがあり、白花秋海棠とよばれている。作例に用いたのがそれである。花材としては、水揚がりがよくない。切ってすぐに水切りし、しばらく深水につけ、充分水があがったのを見定めてから手早くいける。或は水切りのあと切口に重曹をすりこん、つ゜でおくのも一方法である。秋海棠は一種挿しの小品花として使われることが多いようだが、形の良い葉に可憐な花を咲かせるので小ぶりの枝物や秋草の副材として静かに季節感をただよわせるのに向いた花材でもある。0秋海棠鶏頭栗薄薄鶏頭0秋海棠豆柿刈萱0秋海棠吾亦紅桔梗が考えられる。花材白花秋海棠花器黄土色釉横長水盤いけ花は色と形の他に植物の生命感の三つによって構成されている。そしてこの三つのうち、植物の生命感を支える重要な役割を果しているのが花器である。いけ花における技巧(技術)とは‘植物の生命力をどれだけ生き生きと感じさせられるかということであろ一輪の花には個有の色と形があり美しくないものはありえない。だが何種類かの花をとりあわせて一瓶のうちにおさめようとすると、それぞれの個有の美しさか他の花の美しさを打ち消すような働きをして0秋海棠濃紅色大輪菊0秋海棠如膨珀小菊秋海棠しゅうかいどうわれしこう

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