テキスト1986
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③上が不安定あやめ花七月花材青楓紅葉めぎ木瓜の実花器飴色彩大鉢楢伊吹先代の数多い立花の中から好きなものを何作かえらび出すとしたら、私はまずこの一瓶をとりたい。「桑原専渓の立花」の刊の頁にこの絵がでている。解説にもあるとおり花を用いないで立てられた雑木の立花という例は他で見かけたことがない。色調はいけた季節が7月の下旬なので、楓も楢も緑が濃く落ちついた印象をあたえる。他に色彩といっても松の枯枝と紅葉めぎの茶褐色、同じ系統で艶のある粕薬のかかった大花器の二色しか使われていない。文章で表現すると単調な感じをあたえてしまうが、この立花が完成したとき、よくもこんな深い緑を花瓶の上に現出できるものだと心にきざみつけられたのである。この立花を立てた本人の父はどう思ってたのか知らないが、私があまり感心するものだから、照れたような顔をして、寸へえl、そんなに好きか。こんな立花もあるのやで」と言ってたのを想い出す。この立花で好きな点はもう一つある。絵よりも次の頁の写真の方を見ると、はっきりわかると思うのだが、水の美しきである。この立花は緑の深きに大きな効果をあたえているのがこの広い水面なのである。太くたくましい水際が水面と美しい比率で立ち上がり、屈強な松の枯枝を楽々と支えている。時々書棚から出して、倦きず眺め続けている。宿根アイリスには白花種と黄花種がある。花色はジャ!?ンアイリスのように多彩ではないが、すっきりとした花が写真のように聞をあけず二輪ぐらい咲き重なる。花菖蒲ほどの高きだがしなやかな葉はぶあつく茎もしっかりしている。毎年初夏になると出まわってくるが、杜若や花菖蒲の生花を稽古したあと、習いおぽえた葉組を応用していけるとよい。又盛花や投入れには、白花の方はあっさりしたとりあわせで涼感を求めることができるし、貰花の方は青、又は紫系統の花ととりあわせると、明るく多彩な感じのいけ花となる。作例では深い花瓶の三分の一ぐらいまで砂利をいれ、その上に剣山をのせてアイリスをとめている。投入れの主材を垂直に近く挿したい場合、細口で図①のように首の長い花瓶なら深く挿すだけでよい。かえって斜に挿す方が不安定である。ところが図②・③のような花瓶では、斜に挿した場合安定させやすいが、副材の軽く細い花は別として、主材になるしっかりした花材は不安定である。この場合剣山でとめるのが最も簡単な方法である。その上で十文字配りや、T字どめを併用する。これはわかっているはずのことでありながら、稽古のとき忘れたのか何〈表紙のいけ花〉度も何度もいけなおしている人が案外多いので説明しておく。この技入れでは、まず宿根アイリスの下の方の葉をとって剣山に立てる。右端とその左後に長く、中央は前寄りに少し低く挿し、次に紫陽花を花器の口の高きから、やわらかくふくらませるような形にまとめる。そのあと先にはずした宿根アイリスの葉を、前後左右にのばして花型にひろがりをもたせる。そろそろ花のもちが悪い季節になってきた。毎回くりかえすことだが、毎朝いけ花の手入れを忘れないようお願いしたい。花材宿根アイリス(菖蒲科)紫陽花(雪の下科)花器陶花瓶緑葉松サプラJL 1 2

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