テキスト1986
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花材藤の実さるとりいばら子供の頃、友達と山へ甲虫や鍬形をとりに行くと、艇はすりむき、肱はひっかき傷で、びっこをひきひき、大事な虫能の中をのぞきながら帰ってきた。猿取茨とはよく云ったものである。その茂みの中に踏みこむと、固く鋭い肢にひっかかって動きがとれなくなる厄介な雑草だった。新緑の頃、谷川のあたりに藤の花が咲いていたが、いつも蜂が群れていて、これも危険な一廓だった。猿取茨と、藤豆を挿していると、そんなことが想い浮かんでくる。もし私がいけ花に携わらなかったら、美しい猿取茨の実も、風雅な藤の実の姿にも一生無縁で過ごしたにちがいない。このいけ花には、黄土色のどっしりした重心の低い花瓶である。左に大きく流した藤の実を、充分支えることができる。右側の艶やかに色付いた猿取茨の実と、藤の実の灰色がかった緑色が中央の、少し黄ばんだフィロ(アンドロンの葉色と対照しあって秋色を感じさせる。花を使わず、実だけ二種をとりあわせた一瓶である。猿取茨フィロ(一アンドロン花器黄土色柑花瓶猿取茨4

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