テキスト1984
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まつむーがね松虫草←アガパンサスの葉花器緑紬コンポート野道や山路を歩いていて、知っている花に出逢うと、誰もが立ち止まり、優しい気持で見とれる。私達が知っている花は、ごく僅かなものである。だが僅かでも知っていれば、知らない花にも心をひかれ、知ろうとする楽しみがわいてくる。松虫草は山地の草原で、八月になると咲きはじめる。淡い紫色の花で高さは印∞から卯佃ほどになり、群落をつくる。山歩きの好きな人達に親しまれていて、平地より一足先にやってくる高原の秋の気配をとの花によって感じるという。草花の名前には美しい響きをもっているものが沢山あるが、松虫草もその一つである。と乙ろで、その命名の由来について、植物辞典には大体、高原に涼風が吹きはじめ、松虫がなく頃咲くので、そうよばれるようになったと書かれている。だがそれは誤りだそうで、何故松虫草と名付けられたのか、『植物名の由来』(中村浩著)によると、昆虫の松虫と、松虫草とは直接的な関係はなく実は歌舞伎で六部(巡礼)の登場の際使われる鉦かねの音色が松虫の鳴声によく似ているので松虫鉦とよばれるようになった。そしてこの松虫鉦の形が、松虫草の花弁の散った後の形に大変よく似ているのがその命名の由来であるという。日頁の掃図は『植物名の由来』から拝借したが、なるほど花弁が散って暫くたつと挿図の中のCのようないが栗坊主になる。だから本当は松虫鉦草とよんだ方がいいのかもしれない。「松虫草が咲きましたね」というのが山の人々の初秋の挨拶だそうである。高原に群生する松虫草は秋草の中でもとくに美しい。茎の中程で分校し、長い花柄の先に一輪ずつ花が咲く。葉は根のきわに大きい切れ乙みの深いものが対生し、上部で次第に小さくなり、花柄には葉はつかない。そのような姿の松虫草は、澄みきった高原の秋宅に、高くのび上がった茎の上の花が、風にゆれる感じをとらえていけてみたい。左上の一番長い松虫草が却価、下の水際に見える白っぽい花は卸価位あって水平に前の方につき出ている。アガパンサスの葉をかりて、松虫草の少ない緑の葉の量を補った。松虫草は、花屋ではあまり見かけない花だが、秋口から時々店先に野草として親しまれている花が並んでいることがある。知らない花でもいいから、向分でいけてみるととである。いけてみれば名前をしらべてみる気にもなるし、どんなととろに生えているか、いつ咲くかも覚えるとともできる。そうしておけば、いつか野山でその花の自然な姿を見かけた時、その花の心に一歩近付けたような、満たされた豊かな気持を味わえるに違いない。10

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