テキスト1981
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初夏から出まわる枝物材料としては最も一般的なものであるが、近頃はしっかりしたのが手に入りにくい。北海道から九州までの山地に自生する低木で京都近辺の山にも多〈稽古の生花〉ぃ。だがかたまって生えている所は殆どとりつくされているので、自分稽古に使える程は集められない。大きい、おたふくとよばれるものと二種あるが、本櫨の方がねばりがあり生花の稽古にむいている。一人分位はとってこられるが大勢の葉の小さくしまった本櫨と、葉の夏櫨とはいうが漆(うるし)科の櫨とは全然別種で醜聞(つつじ)科に属するのでかぶれたりする心配は全くない。生花としては山の木でもあり枝ぶりも野育ちの感じのものであるから手にした枝によって形をきめる草の花型に向いた花である。小枝が多いのでよく枝ぶりを見きわめて、真、一副、留をきめる。形にこだわりすぎて自然の風味をとわさないように。例えば次頁の柾木のような形Kはいけられないものなのである。留に菊を使っているが夏櫨の一種いけは余程しっかりした枝振りでないと良くはならない。菊や透百合(すかしゆり)など季節の花を留に使った方がよい花になる。夏菊今年の祇園祭には私も浄妙山について廻ることになっている。持(かみしも)をつけて暑い日中を半日烏丸通から四条通、河原町、御池と行列して行進する。京都の方は御存知だが鉾や山の出る町を鉾町という。六月の中頃からその年の打合わせが始まり各々の役割りが決まる。町内の人達も熱が入ってくる。町内から郊外へ引越した人でも御祭りには臨時に帰って来て行列に加わる。兎に角好きなのであろう。だから皆割合いに仲がいい。御祭りは誰しも好きなものであろうが御祭りの内側は一層面白い。神戸の東灘に住んでいた子供の頃は家が町の中でも住宅地側にあって、浜側の酒倉の並ぶ古い土地っ子達の区域とは阪神電車を境に分かれていた。土地っ子達は勉強は嫌いなのが多く何となく私達とは違っていたようであるが、御祭りとなると俄然彼等に子供の間での主役がまわってくる。学校が終っても私達とは遊ばず祭離子(まつりばやし)の練習にとんでかえり、次の日教室でも机で拍子をとる練習をしている。頼んでも中々教えてくれない。御祭りの当日ともなれば彼等は山車(だし)に乗り太鼓をたたきなが夏櫨祇園安豆フ~6 櫨(ナツハゼ)(金茶色〉(京焼花瓶)

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