テキスト1979
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かきつばた(四季咲)かきつばたは春四月、五月に咲き、その後、花がとまり、初夏の六月ごろよりふたたび「返りばな」を咲かせる。盛夏から初秋のころ花がとまり、晩秋より初冬の候に三たび残花を咲かせる習性がある。春のかきつばたは新鮮にして俊雅であり、夏のかきつばたは葉も長くのび実を結んで、花葉の間に見えるその姿は面白く雅致に富む。また霜のおりる晩秋、枯れ葉の交ってすそもと短かく咲く花は、荒涼として晩秋のあわれをしみじみと感じるのである。生花に「四季咲きの杜若」として、その情緒を一瓶の中にあらわすことが、形式となっているのだがここに掲載した「杜若夏の生花」は六月より七月へかけての花。花形の中に実のある茎を加えて、葉も厚く長く茂らせて、その姿に乱れのある様に葉組みを作る。垂れ葉、破れ葉など加えるのもよい。実を入れ開花を高く低く入れ、変化の多い花型とする。乱れの中に引きしまりのある調子がよいとされる。写真の生花は、真に実付の茎一本、胴に高く開花、留に低く開花、つぼみは用いない方が実感がある。葉組みは、真、副、各々三枚組みを荒く組み、見越へ二枚ばかりあしらいの葉、留、控に若葉の二枚組みを入れ、しまりのある花形とする。胴の葉は五枚組みとし、真の親葉(おやば)を垂れ葉として乱れの調子を見せている。右方の子株は三組の葉組みで調子をとり、花を低く(開花)入れ、変調な季節感をあらわすことを考える。以上によって背高くのびやかに入れるとはいえども、その中に変化のある調子に活けることが「夏の杜若の生花」である。この初夏のかきつばたは材料そのものが、その姿になっており、よくみつめて自然のままに活けることが大切である。自然の情緒と季節感、それと生花の形づくりとの調和というところにむずかしさがある。生花6

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