テキスト1979
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tこ。 「ホージョウさんが帰ってきた」というので戸をあけ昭和十八年ごろの話である。私の家に永年つとめていた内弟子の吉田君にも召集令状がきた。かねて覚悟していたとはいえ、さて戦地へ行くというので、その前夜は友人や知人たちが私の家へ集まって、吉田君のために夜おそくまで送別会をひらいたのだった。吉田君は猫(ねこ)が好きだった。そのころ飼いなれた猫がいて、これには「ホージョウ」という名をつけていた。白い毛なみの美しい雄猫だったが、目の下に黒毛があって、その顔が、ある寺院の住職に似ているので、失礼ながら「ホージョウさん」という、猫には身分不相応な名をつけて可愛がっていた。どうしたことかその二、三カ月以前に行方不明となって姿を見せなかったのだが、この吉田君の送別会の夜、それも夜十時ごろ表戸に猫の鳴き声がするので、戸口に行ってみると意外にもこの猫が突然帰ってきて引き戸に登りついているのだっると、走り込んだこの猫は、その夜、吉田茸に抱かれて寝たという。さて翌朝となりいよいよ吉田君の出発の朝となった。午前四時ごろ猫のホ)ジョウさんも表口から飛び出して朝涵(もや)の町を一目散に走り去っていった。これだけの話なのだが、実際、私どもが現実に目にした事実なので、一体、これはどうしたことだろうと、あまりの出来ごとに深い感銘をうけたのだった。その後、この猫は姿を見せないままだったが、偶然というにも、この「お別れに来た猫の話」は思い返すにつけて、全く不思議な因縁話の様に思えるのである。(随筆)(7月1日・京都新聞掲載)c 強い色彩の花を配列する盛花と瓶花、普通の花とは感じの違った作り方である。Rは淡い紫色の夕[登草ヽ白色のづズ紅色のヶイトウの三種を平面的に前・中・後の三列に頭を揃えて横ならびに花を配列している。Rは赤色のダリア、右方の前のアンセミスの暗黄色、左方の下部のアジサイの淡青色、上下三段にならべた色彩の強い花°Rは平面的にならべRは立面的にたてに並べた作り方である。この2作は形も変わっているし、色の配列と花の頭を揃えて花形を作っているところに特徴がある。開花の材料を選んで作る。つほみの材料では感じが出ない。鼠3猫と兵隊専渓アテチョークの青紫色、クロトンは緑に白線の紋様のある葉、洋室の花に適している。

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