テキスト1979
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七月に入ると私の庭に、木椛(むくげ)の花が咲く。京都の祇園祭のころに咲くので、このむくげを「祇園守り」という。白花と紫花の二種があって毎朝単弁花の大きい花を咲かせる。前日つぼみのうちに切りとって床の間の小さい花瓶に挿しておくと、朝、花器の中で形をととのえて美しい花を咲かせている。さし芽がよくつくので、このむくげの枝をもらいに来る人が多い。横浜へも河内の知人へもさしあげたが、今では私の家のむくげの樹に負けないほど大きい樹になって、毎年季節になると美しく咲くと花の便りをきかせてもらう。七月十ハ日の朝、毎年きまった様にこの祈園守りの花をもらいに来る老人がある。七十才ぐらいのお爺さんと、別に同年配のおばさんとである。いずれも茶人らしく、お爺さんの茶人は青竹の手提筒をもって、一枝切って差し上げるとその筒に水を入れて挿して帰るのだが、その風雅な姿が、明治時代の古いころの風俗を画でみるような情緒であ竹の筒には時として枝つきの竹の青葉が少しついていて、実に美しい。私もその日になるとこの老人を待つのだが、いかにも木格的な茶人らしく、その動作や姿までも花をたのしむその姿になりきっている。私の家の祇園守りの花は、この老人のお宅で、朝茶事の席に飾られるかと思うと、私さえも風雅な茶事のお仲間入りをさせていただいた様な気持ちになるのである。むくげも朝頻も水揚げのよい花である。前の夕方に切りとってつぽみの茎を花器に入れておくと、朝になって自然に形を幣えて、美しい花を咲かせる。夏の花の楽しいいけばなといえる。ぎおんまも召青祇園守り1毎月1回発行スイレン桑原専慶流ハスの葉組集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1979年7月発行No. 193 しヽけばな

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