テキスト1979
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仁和寺から2キロほど歩くと鳴滝である。嵯峨に近いこの辺りは京都の郊外らしい風景が折り重なって、福王子神社からわかれて右へは高雄への道、左へは嵐山である。(絵・専渓)⑧ 鳴滝から見る「双びが丘」はゴタゴタと民家の立ちならぶ平凡な小山だが、これが平安朝の歌に詠まれた有名な古蹟であって「月にならびの丘の松」と謡曲の歌詞の中にあるこの名所を、それとなく見すごしてきたのだが、最近、偶然の機会があってこの双びが丘の美しさをはじめて知ることが出来た。嵐山に近い奥嵯峨に「大河内山荘」というのがある。大河内伝次郎氏の広大な山荘を一般に見せておられるのだが、三月のある日この山荘を訪問したことがあった。この秋の予定で作っている「生花百事」の中に入れる生花の写真を撮影するために、古風な書院をその背景に用いたい目的で下見をさせていただいたのだが、はからずも嵐山に向かうこの岡からはるかに東方の比叙山、さらに南方の宇治山まで見ることが出来、その前景として、この「双びが丘」が低く棚引く様に見えるのである。幾十年京都に住みながら、はじめてみる「双びが丘」の美しさを知ることが出来、今さらながら古い歌の心を知ることが出来たのだった。R 淡黄スカシュリコデマリ赤色グラジオラス紅白交色椿⑧ R 6双怠びが丘嘉

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