テキスト1978
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よく、それを考えなければならないのは当然のことであります。この会場に、数冊の本と古い時代の絵巻ものをならべておきました。すでに皆さんごらんになったことと思いますので、複雑な形式や花型の分類などについては、さらに私からお話することをやめておきます。陳列の参考書は江戸時代の立花図の絵巻もの、と今―つは最近出版いたしました私の著書であります「桑原専渓の立花」て外国の「フラワーデザイン」の本があります。「フラワーデザイン」の本の中には外国のいけばな、卓上の盛花、花束、頭飾りの花、胸飾りの花、プーケ、花輪など形式的な技術的な飾りばなの様式がありますが、これは、私達の日本のいけばなが主として室内のいけばなに重点をおいているのに対して、主としてヨーロッパの花の装飾が、いけばなから身辺装飾まで、まことに多様な花の用い方をしていることを示しておりますので、参考のために見ていただいたのです。では、この辺で「立花」の実際作品を作って、ごらんにいれることにしましょう。。さらに参考品とし基本的なその作り方を(立花の実際作品を作りながら話をすすめる)生花をはじめ、瓶花盛花では自然の花を自然のままに、花瓶に入れることがねらいどころとなっていますが、「立花」は数多くの花の材料を組み合せ、一枝一葉に至るまでかなり精密な技巧を加えます。もちろん形式的な花形もきまっておりますし、いわゆる基本的な花形も定められております。松のひといろ挿し、杜若、水仙、の一種挿しなど、その他に数多くの形式があり、真行草の形の変化によって、実に複雑であり華麗な形を作りあげることになります。なにしろ自然の花と樹木を材料に用いるのですから、それぞれ材料自体が変化をもっていますから、それをどう用いるか、自然の草木をあつめて、どの花形を作りなおすかということは、全く作者の考え方によるものでありますので、伝統の形式というものがありながら、一作ごとに作者の自由考案によって花形を作ることになります。一瓶を作るためには約二、三十種類の木もの花ものを使うことになり、それぞれ花と木の個性によって用いる場所が定められてあります。太いぼくもの、細い枝もの、葉もの、つるもの、まっすぐな木、垂れる性質の材料、広い葉ものなど、種々な個性のあるものを花形の中に配置して、「立花」という―つの造形作品を作ってゆくのです。「立花」には空間が大変重要に考えられます。花葉枝によって作られる空間、この空間によって花形が作られる、といってよいほど重要な技術とされています。枝葉の長短の釣合い、前後左右のバランス、奥行の深浅、高低の調和など形を作る上の考え方が必要となってくるのです。いぼくものの組み合せ、花葉の組み合せなどにも力強い技術と細かいテクニックを加えることになります。したがって一瓶の立花を作りあげるためには数種類の釘(あいくぎ)(かすがい)いろいろな工具を用いますし、松葉の組み合せなど特殊な技法を加えることが多いのであります。しかも出来上がった作品には加工のあとの見えないように仕上げることが大切なのですが、技巧を加えて技巧の見えないように、というのは実はそれ以上の技術が必要ということになります。作品図をごらんになりましたように「立札」は足もとが―ことが形式になっています。ぎわ」というのですが、花と花瓶との接する場所、この株もとを美しく仕上げることが、大切な技術になっています。どんなに美しく作られた作品でも「みずぎわ」の技巧のよしあしによって価値が定まってしまう、といわれるほど重要な場所になっているのであります。(立花を作りながら、枝の名称やその性格、配合など技術的な説明を加える)いうまでもなく、すべていけばなそれがためには太、はりがね数種類などつに見える「みずI約一時間1は、その時期、季節にある材料を使って組み立てる性質をもっております。考えてみれば、江戸時代の花と今日の花とでは大変な相迎のあることは当然であって、松、桧、樅、伊吹、その他の花木、また、草花の菊、ききょう、なでしこ、かきつばたのように時代が変わっても、変わりない花もありますが、今日ではそのような日本固有の花木とは異った洋花の類が、常に身辺に多く見られるようになっております。したがっていかに立花といえども、今日の作品には今日の花を如何に使うかということに、新しい問題が起こって参ります。立花は伝統の花だといって古い形式にとどまっているのでは、今日の花として通用するものではありません。また、花器を考えてみても新しい今日的な感党の花器を使うことが大切であり、これに調和する「立花」というと、あらためて新鮮な工夫が要ることは当然考えなければならないと思います。伝統は常に新鮮でなくてはなりません。新しいいのちのある「立花」こそ永く伝えることの出来る価値あるもの、といえると思うのです。そんな意味でこの伝統のいけばなを考えていただければ、私の幸せこれにすぎるものはありません。これをもって私の「立花」に対するお話を終わりたいと思います。講演する桑原先生11

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