テキスト1977
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この夏、フランスからスイスヘ旅行したが、私のいちばん目をひいたのは花の多いことであった。夏といってもフランスの夏は日本の九月から十月へかけての季候だし、季節的にいっても草花が美しく咲くころでもある。昨年は。ハリ市内の建築や彫刻、寺院や庭園など古い美術を中心に見てまわったのだが、今年は植込みの花、それも民家に栽焙してある様な庭の花について特に注意することにしたのだが、。ハリからロワール川の田園地帯の風景を見ながら、これがフランス人の国民性というのか、この国の気候の関係によるのか花に対する関心の高いことには感心したのである。切り花を活ける「いけばな」というものは、私の短い滞在期間では、お目にかかることも少なかったが、土に植込んである栽培の花の豊富なことには全く感心したのだった。田園風景は低い丘陵地帯がひろびろとひろがって、季節の関係もある。ハリの市内でも郊外の農村でも、テーブルの上だろうが、麦の刈り込みを終わった黄土色の畑が目のとどくかぎり辿くつづいて、その部分に濃い緑の森が強いタッチで横線をひいた様に、あのミレーの農村風景そのままの絵がどこまでもつづくのである。から庭の植込みまで樹木とともに草花を、それも植込みの庭の花、鉢の花がいたるところで目につき、私達の目をなぐさめてくれるのである。この花を植え装飾とする習慣がほとんど一般的に普及していることは実にうらやましい限りであった。ここに掲載した写真はそのうちのほんの一部分だが、その装飾の仕方にも様々のエ夫がされていることが目につく。花の種類は日本にあるいわゆる洋花類とほとんど変わりはなく、親しみを感じるのだが、その植込みの配列や装飾法、造形的な工夫は戸外の花に関心の薄い私達日本人には、特に啓発されるところが多かった。ブロワ城下の町(石段と電柱の装飾花)刀噸79,1 ロワール(アンポワーズ城)の花培ロワールの古城シュノンソーの中庭フランス・花のある風景(専渓・写真)

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