テキスト1977
42/148

三月中旬、八重梅の花が終ると、やぶつばきの季節、下旬には彼岸ざくらが咲きはじめる。彼岸桜の紅色は色も美しく静かに風雅である。その染色の花が赤飯の紅に似ているので「おこわ」の通俗名がつけられ、古い花道人がその自然咲きの彼岸桜を好んで活ける。吉野桜は極めて一般的で、大衆的な花見の桜はほとんど吉野桜ということになっているのだが、ある植物学者が「あれは桜じゃない」と酷評されている様に、桜の中でも品位の低い花、ということになっている。桜には土地の名を冠した品名が多い。タイワンヒザクラ、チシマサクラ、フジサクラ、センダイシダレの様に、京都ではお室の桜、北山桜、鞍馬のウヅザクラの様に名所の桜がある。桜には数十種に及ぶ品種があるのだが、私達がいけばなに活ける一般的なものは、ヒガンサクラ、ヤマザクラ、サトザクラ、ヨシノサクラ、などが普通である。サトザクラというのは八重咲きの桜で、その中にまた品種が多い。四月の下旬になるとフサザクラの種類が咲く。白花、紅花のフサザクラ、淡黄、淡緑のフサザクラも遅い季節に咲く桜である。桜がおわるといつしか新緑の木々の若葉の季節に入る。歳時記でいう晩春の季節である。シャクナゲ、コデマリ、ヤマプキ、藤の花、青楓、なつはぜの若葉などいけばな材料にも、初夏の感じにうつり変わって行く。四月下旬から五月はじめにかけての代表的な花は牡丹、カキッパタであろう。カキツバタからハナショウブヘ、やがてスイレンからコウボネが咲き、行く春を惜しむとともに、夏近しの季節感を味わう様になる。草花の水賜げが悪くなるのもこの頃からである。R生花は伝統のいけばなというのが一般的な考え方になっており、花形も基本的な型に添つ様に、一種の型もののいけばな、となることが多い。もちろん生花に一定の約束があり基準があるのだが、すべてが型ものの様なそんな窮屈なものばかりではない。自然の草木の個性を活かして、作者の考案を織りまぜて、かなり自由な感じの作品を作ることが出来るのである。ここに4作の生花を掲載したが、この写真をみると花形は一定の基準に添うて活けているが、材料の分量を少なくして淡泊な調子に仕上げてあるので、なんとなく明るく清楚な感じを受けるのではかなろうか。この四つの生花は必要な枝の配置と花形をまもりつつ、出来るだけ淡泊な感じを出(生花)す様に、枝の分量も少なくし自然のままの枝振りを活かして、清楚な感じに作り上げているところに特徴がある。重くるしくない感じ、清純な感じ、美しい技巧、そんなところに注意して作り上げている。⑧は白桃に淡紅色のチューリップの二種、留の葉の使い方が少しむずかしいが、すす竹に活けたこの生花は明るい調子の生花といえる。白村k チューリッ゜フR 2

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る