テキスト1977
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いけばなのお稽古をなさる皆さん方は、お稽古ごとのお花を家庭でどんなにして飾っておられますか。先生としていちばん気になるのですが、家庭訪問をして拝見に行きたいものと時々息つのですが、どうもそこまではとつい遠慮するのです。床の間に飾ることはまだまだ多いと思いますが、応接間の小テープルやその他適当な場所にエ夫して置かれてあるものと想像するのですが、昔はいけばなには必ず託台や薄板を使ってその上に花器を置くのが普通になっていたのです。薄板でも種類がいろいろありますが、いちばん便利のよいのは黒塗りの蛤板(はまぐりいた)だろうと思います。どんな場所にも花器にもよく調和するし、古雅な花器花材にも、明るい花器材料の場合にも調和のよいのが薄板です。花展では最近、ほとんど花台薄板の類を使わない様になりました。作品傾向が変わってきた関係もありますが、生花以外の作品には花台など使わないことが一般的な習慣となっています。そんな関係で華道家の人達も花台をもっている人も少なくなり、花器を買うのに精いっばいという有様です。道具屋へ行っても花台のよいものもほとんど少なく、文机や香炉を飾る様な性質のものはあっても重量のある花器をのせる様な花台は、古いものを見つけ出す以外、致し方がないといった状態になっています。つまり今日の生活には花台など不必要ということになってきたのでしょう。このごろ立花の写真をとっていますが、一作ごとに考えるのは花器と花台についてです。古典的な重厚さと、荘重な形式の作品ですから、その作品自体の技術も当然問題になることですが、それと同時にその立花の時代感覚に調和する花器と花合についても、それ相当の重みというものが必要になってきます。花形や花の技術さえよければ、花器については意外に無関心といった作品を、このごろ特に多く見かけるのですが、私は花そのものもよく、花器花台もそれに相応した質のよいものでなくてはと、特に注意をはらっております。今度、立花の撮影をはじめて新しく注意を呼び起こされたのは「花台」についてでした。伝統の立花には作ごとに必らず花台薄板が必要であるし、それも立花に調和し得るような重厚さのある花台の類が必要であるということです。花台には種々な形式があります。立花生花用に特に作られたもの、経机風な二月堂卓や春日卓の様な形式のきまったもの、文台風な古典的雅趣のあるもの、したんや古雅な木彫りの盆栽好みの文人趣味の台、地板の類。その他にも種々な好みのものもありますが、そんな古風な趣味のものではなくても、例えば古いョーロッ。ハ風の高雅な形式のテープルの類、現代の工芸作家による創作様式のティーテーブルなど、随分種別が多いのですが、これらを使って花を飾る場合、それぞれ花台やテーブルにはそれぞれの個性があり、日本の古典的な卓には花瓶を飾れない卓もあり、香炉を飾り文台として用いる性質のものもあって、また、例えば地板の様に盆栽や文人瓶花を置くのに適していても、立花の様な古典的な正統派のいけばなには適しないという場合もあります。台そのものが立派であればよい、外見上、花器との調和がよい、というだけではすまされない、格というものがあります。私の「立花作品集」を作るにあたって充分、思い知らされたのは花器とともに花台に関することでした。幸いに私の手持ちの花台もか拭り多数あり、それに最近京都市内の古美術商を廻って、その時代や性格を考えて立花に調和し得るものを買い集めていますが、以上の様に中々むずかしいものです。格好さえよければよい、だけでは済まされない種々な条件があるのです。考えれば考えるほどむずかしくなるというのがこの頃の心境です。花台や薄板を買うとすれば値段はどの位するものか、についてお話しましょう。漆器店でのおよその値段を考えてみると、薄板の木地の見える黒色のものから真塗まで五、六千円から一万円程度。花台の新品が二万円程度から十数万円程度というのが普通の目安です。古美術品といわれる手入れの行きとどいた美しい古道具の平卓は、少し質のよいもので五十万円程度はします。したんの大きい平卓はかなり年代道具の性のたった使いなれた道具でも百万以上はすると思います。私の家には大小およそ五十個程度はあると思いますが、形もさまざまで今あたらしく買い求めようとしても中々見当らない形のものも混っています。花台をほとんど使わなくなった今日、さがしても中々みつからないというのが真実で、かりに美術崩のウインドゥーにあっても、いけばなには装飾が多く品格のよい品が中々見当りません。品何がよくて花にさしさわりのない単純な形の、しかも質の優れているもの、というと中々見当らないのが普通です。皆さんもご承知の適り、どんなものを買うにしても一度や―一度でわかるものではありません。きものや服飾品にしても同じことだと思います。何度も買いなれて品物のよしあしがわかり、その価格についてもそれが妥当かどうかが理解出来るまで、中々大変な買いもの修業が必要、ということがいえます。私は若いころから道具が好きでした。高級品には中々手が出なかったのですが、随分数多くの道具類を買いました。日本趣味のものも、中国の道具類も、洋品類もこれが好き、と思っとついつい買ってしまうということで、段々とわかる様になりました。同時にいろいろな道具類を買い集めたことにもなったのです。花器が多いのですが、さきにお話しましたように立花を作り続けるようになって、古い立花瓶やそれに調和する古い花台の類を、いま集めております。そんなわけで段々と花器類の置き場に困るようになり、このごろ花器の部屋を作らせている次第です。... 一ムだ口ぃ12 花か

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