テキスト1977
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桑原冨春軒には小さい庭が四つある。いずれも小さい庭だけれど京都市内のまん中、ビルの街のその空間にある静寂のうことができる。この月号の芸術新潮に紹介されたのはそのうちの―つで、カラー写真の印刷が中々よく出来ていて、実際以上に美しくみえる。茅屋の一部を紹介されたおもはゆさもあるが、地方の同門のお方など通りがかりの本屋で見て下さい、と宣伝しておきます。次のような私の小文も掲載されています。京都のまん中、六角通から細い石畳の通路を二0メーターほど入ると、この庭がある。玄関の六置が茶席になっていて、みのどうだん、杉、つつじの茂みの葉蔭に路鋸(つくばえ)があり、北山杉で作った待合が設けられている。そんな静寂なたたずまいで、いかにも茶道の通人の住みそうな家だが、その実はあまり茶を点てることもない茶席で、自分の戦業柄、申訳ないと思っている。附近は会社商店の六階七階が並んでいるビル街のどまん中だが、表通りから入り込んだここだけは雑踏をはなれて静かな落若きと風流らしい姿をそなえている。茶庭の形をしているけれど、四季を通じて花の咲く木、草花を植え込んでいるので、なんとなく明るい感じがするというお客さまの評判である。十二月に入ると白花のわびすけ椿が咲き、せんりょうや、薮柑子の赤い実が色づきはじめる。茶席の紙障子をあけると四坪ばかりの狭い小庭がある。自然石と砂、それにシュロチクとクリハランの低い山草が添景になっていて、いわゆる坪庭という形の庭である。杉苔のあいだにトルコ青の陶盤がおいてある。京都の陶芸家宇野仁松氏の作品で、さびた強い青色が狭い坪庭にただわが悦楽の坪庭花のある庭(芸術新潮・2月号)―つの色彩を添えている。っぽにわ専渓一角とい植え込R椿は清楚に軽やかに、小品花として活けることが多い。あるいは他の花材のあしらいとして色を添える程度が、いちばん多い椿の用い方である。その椿を沢山あつめる様に花葉を揃えて厚味のある形を作り、それに配合してラッパスイセンをあしらったのがこの瓶花である。白い三角形の花器に活けたこの白椿の顔花は、なんとなく明るい感じがあり、洋間にでも調和する感覚をもっていると思っ゜ラッパスイセン白椿R 10

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