テキスト1977
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生花は技巧の花といえる。しっかりとした技巧、一瓶のうち枝葉の小部分までもゆきとどいた精緻な技術が必要なのだが、さて、出来上った作品にはゆったりとしたのどけさと自然さが望ましい。粗雑な仕上げはよくないが型ものの様にみえる生花には品格が乏しく、低俗の趣味が感じられる。たしかな技術の中にゆったりとした風雅を感じさせる様な花、それが優れた生花ということになる。作りすぎてはいけないし、また乱れがあってもよくないということになると中々むずかしいのだが、日本の伝統芸術の中にはこの性格のものが多い。絵画、書逆、能Rここに掲載した生花3作はそれぞれ30分程度で作った作品で、写真の小西氏が出来上りを待っているという状況で活けあげた生花である。この寒桜(かんざくら)は左勝手の留流しの花形である。どれもこれもよい作品をと欲ばりながら活けるのだが、さて出来上ってみると中々思う様には入らないもので、この寒桜の生花は少しかたい感じがして面白くないが、とにかく写真にとる。寒桜は枝も柔らかくためやすく思う様になる材料だが、もう少しのんびりと活けたいと忌う。秋の生花にはいちばん楽しみのある材料であって、一秤挿しもよく椿を留控につけるのも調和がよい。寒菊の黄花も色彩的に美しいと思う。花器は淡褐色の陶器で銅の中筒を入れくばり木をかけた。楽、花道などいずれも技術の練磨をつくして後、その上の暢やかな境地にゆきつくのが理想とされている。外見の美しさのみを考えるのは若々しい時代の作品であって、その境地を超越してのどかな生花を活けるようになると、その作品には高い気品と雅趣を感じるのである(かんざくら)寒桜のびやかさ6R 晩秋の生化

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