テキスト1976
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R花菖蒲、トウチクの二種の瓶花である。トウチク(唐竹)と漢字で書くのだが、これは茎が竹の様にふしがあり褐色の包皮があるのでこの名がある。中国原産の草花で、野生種の草花らしく江戸時代から栽培の草花で、古い日本の花である。トウチクは百合科の一種で細い笹に似た葉と白く緑のバイモに似た小花をつける。しずかな感じの花なので茶花に用いられる。濃い紫の花菖蒲を一本にトウチクを三本つけて、大ぶりの淡青磁の花瓶に活ける。花器はかなり背高く草花の染付壷なので図を後方にまわして小部分だけ見をるようにして使う。花菖蒲にしては珍しく茎が曲っており、この形を利用して軽やかに葉をあしらって挿花したが、トウチクとの配合もよく、花器が高いのでトウチクの垂れた形のものを選んで、花器の前部へ下がる様に挿した。この二種の配合は日本の花の落秤きが慇じられ、また品のよい配合といえる。さっぱりとした初及の花、そんな慇じの瓶花である。Hも大阪のある会合でいわれたのだが、そんなに旅行するのかな、と思いながら、まぁね、とかなんとかいって調子をあわせておいたのだが、私は旅行をするたびごとにはじめての土地へ行って、ぶらぶら歩きをしながらきまった様に陶器屋や道臭屋に人って、花器になる様なものはないかと物色する。るままにいつしか壷や篭、時代ものの下手もの道具を頁いこんで、さて、どうして京祁まで持って帰るかということになり、あらためて考えさせられることになる。金沢、松江。倉敷と高山は行くたびごとになにか面白いものを発掘して下手ものが段々たまってくる。横浜の外国民芸品、大阪の阪急17番街の輸入道具店など、京都では大体、どこに何があるかを見当つけてさがしまわる。仝然駄目な日もあるし意外に傑作品をみつけ出して嬉しくなることもある。京都では古美術級のものから新陶器の窯場まで大体知っているから、必要の品に応じて場所をきめて行けばよいのだが、いちばん困るのは遠隔の地方で、送らせるほどのこともなかろうし、これぐらいは持てるだろうと考えていよいよ持って帰るまでの荷厄介さにはときどき困り入ることがある。よほど優れたものなればよいのだが、雑品をうっかり買い込んで失敗することもある。桑原さんはよく旅行されますね、と先道具屋の座敷へ座り込んですすめられ北海道から東北地方の秋田仙合など、これを6 R 花菖蒲トウチク

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