テキスト1976
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雀'カキツバタからハナショウプの季節、と思ううちにシャクヤクも終りがたになり、やがて五月のすえ六月のはじめにはササユリの花をみるようになる。青葉の季節のそのはじめのころ、池泉には紫の花菖蒲が咲き、すがすがしいササユリの花をみる。浅みどりから淡紅に色をかえて味くササユリの花をみる私達は、山裾の草原に咲くこの笹百合の惜緒を想像して、ひとしお季節のうつり変わりを深く感じるのではなかろうか。手にとってみて野生の花の美しさをしみじみと感じるのはこの笹百合である。花も美しく笹の葉に似たそのさわやかさは、自然に咲く花のうち最も日本的な梢紹とやさしさをもっている花、ちょうど若鮎のような新鮮な季節感をもって、私達のいけばなに初皮の香りを通わせてくる。百合の花も多いけれど私はこの笹百合こそ日本の花の中でいちばん好ましい花、と思うのである。カキツバタの紫もよい。ャプツバキの赤い花にも詩趣がある。しかし夏の日のはじめを私逹にしらせるようにして咲く笹百合の新鮮さを、この上もなく好ましく思うのである。さて、ユリには種類が多い。この月のテキストにはユリを各種の花器に活けて、それにふさわしい花材の配合を考えていろいろ作品を作ってみた。壷にもよい、篭にもよい。水盤にもよく調和するし、ヒメュリやオトメュリなどかけ花や釣り花生、小品の花器にもよく調和する。色も美しく姿のやさしい百合の花は、日本趣味のいけばなにいちばん適した花材だと思う。百合の季節No. 157 毎月1回発行桑原専慶流編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元鴫1976年7月発行しヽけばな

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