テキスト1976
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かんしょうか江戸時代から伝わってきたいけばな、というとすぐ立花(りっか)生花(せいか)を思い起こします。この二つのいけばな様式はわが国で考えつかれ、日本の伝統建築に調和するように形式や技法が定まり、今日まで伝承してきたものでありますが、これとは別に江戸時代の趣味の人達の間に行なわれた「文人生」ぶんじんいけ、という―つの形式があったのです。文人生というのは、中国の古い文化人の中で流行した花の活け方、その考え方なのです。文人という言葉の意味は「詩文書画など、文雅なことに従事する人」であって、この人達が好んで描いた絵が「文人画」ということになります。広辞苑をしらべてみると、(文人画)文人が余技として描いた絵。精巧彩色より墨色や筆線を重んじ、中国では古くからその気韻風雅をとうとび、多くの様式が行なわれた。と、あります。わが国では江戸時代(絵専渓)す。に入って独特の発達をとげ、これを「南画」といって、今日まで画の一様式となっていることは皆さんも御承知のとおりです。さきに申しました様に、文人風の考え方は書画の分野、詩文の形式だけにとどまることなく、ひろく中国の生活文化の中にとり入れられたもの、と考えられますが、これが日本に伝えられ江戸時代にすでに「文人風」の絵画や文学、あるいは花道、茶道「煎茶」にその趣味と形式が、一種の流行の様に一般化されたのでそこで、花道の中での「文人風のいけばな」というのは、現在でも一つのいけばなの考え方として行なわれているのですが、例えば「文人瓶華」という流派もあり「南宗瓶華」という流儀のある様に、これは中国の文人趣味をとり入れたいけばなであります。さて、その文人趣味のいけばなの中に、瓶華とともに行われている、「盛物」もりもの、というものがあります。それについて少しお話をしようと思います。文人風の装飾物には文人瓶華、盆栽、盛物、煎茶など同じ系譜のものですが、いずれも優れたよいものをもっていますが、通じてあることは自然の風雅、古雅な趣味、軽妙脱俗の境地、古い中国的な風格、こんなところに興味の重点をおいている様に思います。私達のいけばなには古い日本的な情緒や、現代の生活に通じる明るさ、現代の洋画に通じる様な色彩的ないけばな、こんな点を理解して種々ないけばなを活けるのですが、「文人風」というものとは少し線がことなる様です。しかし、いけばなは、古雅な世界もよく理解すること、また今日的な美の世界について、それをいけばなにとり入れることも必要なことでありますから「文人調」も―つの風格として理解するのも、望ましいことです。ここに掲載した三つの絵は、昭和十五年前後に私が写生したもので、今日からみると大分古い感じがするのですが、書棚の奥からとり出したこの絵を「たたき台」にして話をすすめることにします。Rこの絵は水盤に形のよい自然石をおき、「こうぽ」「ねすいれん」をあしらって盛花風に形を作ったものです。これは盛花の一種であって「意匠花」ともいうべきものです。水辺の情景を写実風にあらわしたもので、これは「盛りもの」ではありません。岩石と水草の調和を考えたもので、石と花との配合というところに雅趣があり文人調の盛花といえます。古い言葉に「盤景」ばんけい\自然の情景を写実的に作った意匠花です。石は雅趣のあるものを選び、渓流の自然をみるような感じをみせます。春蘭、福寿草、ふきのとう、いわかがみ、いわなし、野菊、山菊、その他野生の趣味のある草花を使ってつくるのも面白いと思います。(意匠花)鑑賞果石と花9R 10 文f人え生ドと

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