テキスト1976
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Rうす紫のハナショウプに庭の草ソデツの葉、濃い紫花のテッセンを添えて盛花をつくった。青磁の盛花器は蛙手のある高足水盤である。かなり名作の花器だが、この花器には椿、菊など雅趣のある花が調和する。紫菖蒲にテッセンの紫は同色系の濃淡の花だが、この同色の紫と緑の葉の色彩の組み合わせが、この盛花に新鮮な感じを見せている。テッセンを前方のすそもとに花を集めてあるのも意匠的であり、三種の花葉の形がそれぞれ異っているのもこの盛花に変化をみせていると思う。ハナショウブR対ページの藍絵染附鉢に太いカラマツの樹幹を横倒しにおいて花器に安定させた。このカラマツは枯れ木で褐色の枝と白いコケ附の幹が強い感じの雅趣をみせている。文人趣味といわれる古い中国の星絵にあるような奇趣とでもいうべき調子の花だが、渋いボクモノと赤い小さい花をつけたバラ、この二つの組み合わせは面白い雅趣のある花といえる。盛花の中の文人調の作品といえる花である。花器にはテッセンの図案が描かれており、夏向きの花器としても適している。カラマツを花器のフチにのせて剣山で足元をとめた。ベニシダテッセン6月号のテキストは盛花特集ということにきめて、17日写真をとることにした。いつもの様に出入りの花屋へ二軒、材料を見に行く。今日はどうしたことか材料のめぼしいものがなく予定の半分ほどの花材を買う。ミニバラの鉢ものとアジサイの鉢ものを持ってこさせ、これも切りとって花材に使うつもりである。今日の花材は、前月五月号の花材に比較すると半分にも足りない。今日は活けにくいぞ、と自分にいいきかせながら午後五時より活けはじめる。次々と活けて行くほどに段々と材料が足りなくなって心細くなってくる。底のススキの葉やシダの葉を切りとり、また保存した枯れもの材料などを動員して、とにかく予定の13作を作りあげ、一作一作と写真を撮影して終ったのが午前三時。皆さん、こんな楽屋話をききながら、このテキストの作品をみて下さい。そして作者の苦心がどこにあるかを考えるのも参考になると思います。豊かな花材をもって活ける場合は、当然活けやすく自由に配合することが出来て、心も悠然とする。この反対に足りない材料でいかによく見せるか、ということも必要なことであり、その苦心の中にまた別の楽しさが生まれることにもなる。足りない材料でよい花を数多く活ける、少しでもよい作品を作ろうとするのも―つの技術といえるだろう。今月は盛花のいろいろな作品を作るという条件の上に、しかも花材が足りないという状態が重なったのだが、それが各作品の中にどんなにあらわれているか、ということを見て欲しいのである。6 R

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