テキスト1976
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五月はいけばなの花材にとってあまり面白くない季節です。昔は一月二月が四季の中でもいちばん花の少ない季節だったのですが、温室栽培の発逹したこのごろでは、ま冬でも美しい花が見られるし、また自然の冬の姿にも特殊な雅致が感じられ、ことに猫柳やにわとこの様な芽吹きの姿にも新鮮な早春の深い味わいがありますし、なたねや岩梨の花、邪聞の雅趣、イワカガミの紅葉など冬なればこそ愁じられる自然の風情があります。桜が終ってつつじの花が咲き出すころから時候もすっかり変りいわゆる新緑の季節となります。花が終った木は新しい芽吹きをはじめ、柔かい草花が一せいに咲き出すシーズンとなるのですが、一般的には陽春といわれるこの季節は、私達のいけばなには、一年中でもいちばん面白くない季節といえるのです。なぜ、といいますと、まず第一に木ものの新芽は形のよくない姿ですし、水掲げもよくありません。これが六月に入ると若葉もかたまり新緑の美しい姿をととのえることになるのですが、宜月は氾芽も柔かく形もよくない季節なのです。また一方、草花も五月に咲く花は平凡な一般的なものが多く、例えばスイセンの類、カーネーション、マーガレット、アネモネ、チューリッ。フ、デージーなどその他の草花の類は柔かくのび切った姿の季節ですから、花壇の花として見る場合は華やかに美しいのですが、さていけばなの材料には、あまり姿のよくないシーズンなのです。ライラック、シャクナゲ、コデマリ、サッキバイ、リキュウバイ、ッジの類など、かんぼく(低い木質の枝もの)の花の咲く季節ですが、若芽に花をつけた種類の材料は、早在の花木類と比較すると、形も悪く水揚もよくないものが多いのです。五月の花として代表的なものは、ボタンとカキツバタです。そしてバラの季節でもあります。カキツバタは四月から五月の花ですが、雑然として咲く晩春の草花の中に、いかにもすがすがしい季節感があり、また牡丹の自然咲きの花葉は糾室咲きに見られない華麗さと、最も東洋的な色彩感のある特異な材料といえます。露地で栽培されたバラの花培をみるとのびやかな陽春の美しさを感じられますし、いけばな材料としても湿室咲きにない自然の色彩と葉の血立さを見ることが出来ます。ツ8五月の花材R バンタナスアザミ透明のカットガラスの花瓶に緑の築を主にアザミの紫赤色を少し加えて,さわやかな憾じの瓶花を作った。ガラス花瓶に緑の葉ナナカマドものを活けるのも調和のよいものである。五月から夏にかけて,こんな感じのさっぱりした配合を考えたい。

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