テキスト1976
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§ かきつばたの紫水辺をその季節彩る専渓かきつばたの紫の色、黄みどりの葉には日本の花を代表する情緒がある。能楽「杜若」の中にある平安朝の色摺衣(いろずりごろも)のものさびた紫の色、あの静けさと華やかさが、かきつばたの詩情といえる。「似たりや似たりかきつばた花あやめ」といわれる様にアヤメ科のうちにカキツバタ、アヤメ、ハナショウプはよく似通った春の草花だが、いずれも山野湖沼に野生する花である。桜の花がおわり山椿の花が落ちるころ、かきつばたの紫とさわやかな緑の葉を手にとって、しみじみと季節のうつり変わりを感じるのは私だけの感似ではないと思う。いよいよ春の化が終って新しい初夏の季節を迎えるのである。きのうの夜、活けたかきつばたの生花が、けさ花をひらいてこの原稿を書く私の机の前におかれている。すす竹の花器に入れた生花が落希きをみせて、いかにも日本のいけばならしい味わいが感じられる。このごろは冬のはじめから春の花を活けるようになり、姫百合やカイウのように初皮の花さえも冬のうちに活ける様になった。古歌にある「ひととせを去年とやいわん今年とやいわん」などといった感拭は、それこそ古い昔のことに思えるこの頃なのだが、私逹のいけばなの中には、この自然の季節感を、ふるさとの味わいの様にいつくしみ、四季を通じていけばな作品の中に大切に考えて、折にふれて「季節感のあるいけばな」を活けたいと思うのである。毎月1回発行桑原専慶流編集発行京都市中京区六角通烏丸西入桑原専慶流家元1976年5月発行No. 155 しヽけばな

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