テキスト1976
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丁ばかり池殿橋を渡ってすぐ道喜の家がある。土塀を廻らせた古風な感じで菓子屋というよりも社家といった感じでいかめしい。二十四日に行くと今日は休業、また二十五日に行ってみると今日は休業と門をとざしている。道喜のちまきはご存じの通り、すいせんちまき、ようかんちまきの二種が有名である。数百年の伝統をもつ餅座の元祖、餅屋道喜で名が通っている。(長五郎餅)私の子供のころは「北野のちょんごろもち」などといって喜んだものだが今はすっかり材料も変わって駄目になった。それでも北野神社の境内に店をひらいて(本店下の森)ニ十五日の祭日には、名物長五郎餅の茶店が風雅な舞台装置の様なたたずまいをみせて繁昌している。(あぶり餅)京都の西北に位置する今宮神社の境内にある「あぶり餅」は有名である。この写真にある様に今宮神社東門に店をかまえて、あぶり餅屋の店が両側に二軒ある。いかにも古風な店の様子で通りかかると、両側の餅屋からおばさんが競いあって「あぶり餅どうどす」と声をかける。時代をさか廻ししたようなのんびりとした風景である。表の床几に腰をおろすと写真の様に櫛ざしにした小さい餅にごま味噌のたれをかけて盆にのせて「おおきに」とさし出す。「やすらい祭は十日の御神事」で有名な.. 今宮さんの境内にこの店が出来たのは長保二年、血統二十三代といかめしい由緒書の木版刷りの紙を呉れる。(あぶり餅一人前三00円)素朴な形と味わいがある。(あわ餅)北野神社の大鳥居に而した今出111通り紙屋川に近いところに「あわ餅屋」がある。写真の様に現代調の店で名物餅屋としては風雅な情趣はない。名物菓子屋も時代がたつにつれて味が落ちて面影を失っているのだが、あぶり餅もこの粟餅も昔の味を伝えて変化してないのが嬉しい。気むつかしい主人が気に入らない客だと叱りつけるので、普通の餅屋だと思っと飛んでもないことになる。黄色の粟の粉でまぶした餅が歯ぎれがよく美味しい。二代の伝統をもつという北野天満宮のあわ餅屋として有名である。(賀茂のやき餅)上賀茂神社の表通りに面して名物やき餅屋北野の「あわ餅」.. っがある。賀茂のやき餅は古い伝統をもつもので、その昔は「おやき」という呼び名で上賀茂、下鴨の名物となっている。最近は形も小さく体裁よくなっているが、私の子供のころは直径10センチもある大きい焼餅だった。もちろん材料も変わっており昔の面影はない。祇園八坂神社の南門を二三丁南へ歩くとこの椿餅屋がある。道明寺の白餅と褐色のにきの香りのするもの二種を新鮮な椿の葉を上下にのせて風雅な形の餅菓子である。今は竹の皮に似せた紙で巻いて売っているが、惜しむらくは椿の葉の惜紹を忘れている。この椿餅は王朝時代からの伝統をもつ餅菓子で、その昔は「つばいもち」と発音した記録がある。もと姉小路魃屋町にあったのだが、いつしかこの下河原に店がうつっている。それでも味は昔と変わりなく淡白な味わいに風雅な而影を残している。(椿餅十)下河原の「椿餅」、. 上賀茂の「やき餅」11

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