テキスト1976
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植物学的にいうと松の種類は、世界に9属200柾あるといわれている。9属というのは、マツ、モミ、トガ、サクラ、トウヒ、ツガ、カラマツ、ヒマラヤスギ、コウヤマキなどを含む総称であって、学問的にははこの内のマツ属の中に入っているのであり、「松はお祝いの木」と常マツの種属に入っている。私達が一般にマツと考えているのクロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、チョウセンゴヨウ、アイグロマツ、ハイマツ、大王松その他の種類である。松は日本人の生活の中に深いつながりをもっているも識的に思われるほど、大衆的というのかむしろ神仰的に松という植物を尊敬する習慣がある。松は東洋に多い樹木であり、日本にはことに多いものだが、日本の風景とは切り離せないほど、私達が常に見なれた樹である。その中に(クロマツ)をオマツといいツ)をメマツと呼ぶことが普通であり、その他、ヒメコマツ、ゴヨウマツの名が一般的である。松の中では二葉のものが普通であり、五葉の松は特殊な松と思われているのだが、世界的には五葉の種類が多く二葉の松の方が少ない。またその他、大王松(ダイオオショウ)の様に葉の長い松、変わったものには太い松の樹(アカマ幹から直接、松葉の発生する様な珍しい種類のものもある。私達が若松(ワカマツ)といっているのはオマツの若木であって一種類ではなく、つまりクロマツの若木なのである。さて、私達のいけばなには松を材料に使うことが多い。古典的な「立花」には殊に使われることが多く、一般的にも股祝のいけばなには松を活けることが習慣になっている。松はお芽出度いというのが一般的だが、何がお芽出度いのか、と考えると伝統的ないい伝えという程度のものであって、日本の風景に調和した松の美しさに対する「あこがれ」に似た印象がこんな言い伝えとなったものであろう。これは外国の「花言葉」やクリスマスツリーの様に生活的、宗教的な見方であって、これはきびしく考えるほどのことでもない、と思われる。H本の古い時代には、松、杉などの大樹には神が宿るという信仰があり、高山の学々と笠え立つ樹木の中に神社、寺院があり、また村落の樹木にかこまれて神社があるという風景をよく見かける。また能楽党の舞合に老松の絵が描かれてあるのも同じ様に、要するに大樹に神が宿るという神仰的な古い習慣によるものと考えられるのだが、今日の私達のいけばなの中でもともすれば、木を上方に立てそのすそもとに草花をつけるということが刑慣の様になっているのは、この伝統が心ならずも残っているのではないか、と考えるのである。若松とショウブは調和のよい取り合わせである。5月6月のころ松の若芽と紫色のショウプなどことに季節感があって好ましい。12 松

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