テキスト1975
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いけばなは花器に花を活けることであり、それをどんなに美しく作るかについての形と色調の技術考案、これが必要であることはいうまでもない。私達が生花、盛花、瓶花を作る場合には常にこの考え方が中心となってよいいけばなが作られる、ということは、これも当然のことである。しかし、これがその考え方の全部かというと決してそれだけでない。いけばなの本筋である造形と色彩とそれに必要な考案の他に、的な工夫」という、正統的な技術の上になお必要とする考え方がある、ということである。わかりやすくいえば、生花の正し「意匠い技術や盛花瓶花のすべての他に、新しい「意匠」のある作品、というものがある、ということである。ここに掲載した2作の作品は普通のいけばなの上に、その場所にある感覚をうつしとって、新しい工夫を加えて作品とし、しかもそれがいけばなとしてもしっかりとした内容あるものとする、いわゆる「意匠的作品」ということが出来る。これは普通のいけばなだけではない別のもち味が加えられることになるのである。古くよりいけばなにはこの様な意匠的装飾性のある作品が数多く作られており、これがいけばなの一っの形式と見られるまで普遍的になっていることも、考える必要がある。これは京都烏丸丸太町にある大丸ヴィラ(別荘)の古い煉瓦塀である。塀の上から街路をのぞく様にツルバラの枝が重なりあって、その後方にヒマラヤ杉の大樹が亭々として見え、それを前景に古雅なゴシック風の建造物が見える。五月の春、十月の秋には大丸ヴィラのバラの花が美しく咲いて、御所に面したこの街角に彩りを添えるのである。偶然と通りかかったのだが、とりあえず写真にとっておいた五、六枚のうちから、この1枚を選んで、さらにこれに調和するいけばなを作ることにした。私の家に古い洋酒瓶のキャビネットがある。古い外国製のキャビネットの感覚とバラの配合は、ちょうどよい調和の様に思えるので、一種の装飾花、意匠花として作ってみたのがこの作品である。(写真・専渓)11

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