テキスト1975
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花と竹の関係は古い様で案外新しい。竹の花器としてはまず竹筒、藍(かご)であるが、竹の花入は利休から始まったと伝えられている。天正十八年(-五九0)に賎臣秀吉が北条氏攻略のため小田原城に陣したとき、供奉の利休が韮山竹で作った陣中の竹枕の一本を入手して、三つの花筒を作り尺八、園城寺、夜長と銘をつけたのに始まるという。利休は一生に竹花入を三十六本作ったとも伝えられている。「よなが」は大名物、千家名物で大阪の藤山美術館の所蔵で「園城寺」は東京国立博物館に秘蔵されている。この園城寺を利休の長男の道安が校して作ったものがこれも藤田美術館の所蔵となっている。竹筒は花入れ藍と迩い切ること、削ることで比較的仕事が容易なため、茶人が自分の好みで作ったものがある。その中で蒲生氏郷の一重切、松平不昧公の弟の雪川(一七五三ー一ある。利休以後、竹花入が盛んに作られ、床中の釘にかけ床に置いて花を観賞する。簡索な竹筒が花の美を活かし、竹の形状、節の有様など竹のもつ素朴な姿にわびを尊ぶ茶人の大いに愛用する処となったものと考八00)の尺八などが有名で小菅大峰える。寸度、わにぐち、旅枕、獅子口、二重仕、三重生、五重生、乱杭、橋杭、うたい口、みおつくし、三つ足、鶴首、福禄寿、えぼし、和船、唐船、田舟、横笛など竹花入の主なものが以上の通りで、これらは茶席に限らず挿花に使用されている。竹で編んだ最も古いものは石器時代で、その時代にすでに完成していた。筆者の見たものでは昭和四年に東京高島屋(震災後の伝馬町の仮建築時代)で開かれた考古学の大山柏公主宰の原始文化展覧会に出陳されていたもので、青森県八戸出土で、藍(かご)に漆を塗ったいわゆる「藍胎漆器」の残欠である。漆のため腐敗を免かれたものと思われる。数万年前には中国大陸と地続きであったことが、その後の多くの出土品で立証されていることを考えると、これも大陸の人が移り住んで作ったものかと考えられる。これ等は生活の用具として作られたもので時代が降り生活が多様化しても、竹藍が人間の生活と切り離せぬ存在であったことは世の人のよく知る処である。利休は桂籠(かつらかご)を好み、久田宗全は宗全籠を案出した。桂かごは桂川の漁夫が使用の魚かごである。宗全籠は四角形、丸い口、撫で肩で丸籐を二本撚った手のついたものである。現在多く見られるススダケの手のついたものは後の人の好みである。宗全藍(そうぜんかご)は前記の久田宗全のものが本歌である。宗全は表千家原曳(六代宗左)の実父で、原斐が紀洲侯の茶の指導に行った留守中のつれづれに作ったものという。素人の作ったものであるから稚拙であるが反ってそれに雅味を感じさせている。大阪の藤田美術館に秘蔵されていて昭和四十五年秋の展観の際、筆者も拝見している。茶の方では、蝉かご、蛇かご、暦人笠かご、松山かご、有馬かご、広かご、などがあり、いずれもわび茶人に愛用され今日でも作られている。これらの内、蛇かご以外はその時の宗匠の好みで作られたものと思うが、元来、藍は前述の通り生活の用具から生まれ、それが花入れに応用されたのが始まりである。華道は仏前の供花から始まるといわれるが、それらに使われた花入れの多くは銅器その他であり竹はない。華道が盛んになって多くの流派が生まれ、花型も投入れが多くなるに従ってはじめて今日の花籠が生まれたわけである。大陸から渡来のものを別として精々百年ぐらいの歴史と思われる。魚かご舵かごが茶に使われ、その時代の生活に使われたもので、青竹で編んだいわゆる「青藍」と称するものである。花藍が工芸品と認められたのも近未.. 々五十年で、昔の帝展の四部に出品を見る様になってからである。花藍を買う場合、多くの人が口の狭い見た目に形の調ったものを選ぶ人が多い。茶道のかごは「桂」といい「宗全」といい口の小さいものだが、茶花で少しの花が活けられる処に理由がある様に思う。然し一般の花器として花藍を使う場合は、近代的な花を入れるので、少しの花とは限らず然も花器そのものを鑑賞するものは別として、花と花器が一体となって初めて完成するものと考える。これから思うと花藍でも形だけが整ったものを買うのでなく、花を入れて美を感じさせることの出来るもの、従って口の広い一見、形のととのわない様な藍が存外花を入れて良くなるもののあることを考えて欲しいと思っ。戦後の前衛流行で華道も非常に変り、花か工作かわからない様なものが見られる様になった。しかし、これらはいわゆる会場芸術のたぐいで、奇をてらうというのか、人目を引き己を誇示する出品の様な気がする。華道の本筋は一本の花でも花の美しさをより美しく挿し、われ、人ともに楽しむことにある様に思われる。花を愛する者の一人として又こうあって欲しいと思う。テキスト「藍のいけばな」号、御編集に際し、専渓先生のご要望により拙文を草し責を果します。(竹製品全国振興連盟理事長)ぷg⑭竹と花

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