テキスト1975
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その朝、松本のタクシーの池田という運転手がホテルまで迎えにきてくれた。親切な運転手で、おみやげだといって畑のトウモロコシの実を風呂敷に包んで持ってきてくれたが、とにかくこの辺の人情はまだ素朴で皿早かである。梓川にそうて帰りの道すがら沿道の花をみるたびに車をとめて、花を写真にとり草むらをわけて短い時間のうちに花の写生をする。ここにのせた「富士あざみ」の絵は梓川ダムの少し上流の谷川添いの砂篠の間に生植していたオオアザミだが、高さ50センチにも及ぶ大型の花である。この運転手の池田という人、中々に趣味が深くノートに花の絵を書いたのを持っており、説明したり質問したりして結構自分も楽しんでいるという、珍しくいい人だった。富士あざみは富士山麓に多いのでこの名があるのだが、中部地方の低山菩から亜高山帯の山地水辺に多く野生する。花の直径10センチ程度の大型の花で、園芸品種のアテチョークによく似ている。朱色のガンビの花、リンドウの紫ばながところどころに見える松本までの道フジアザミを、私の車はひた走りに走りつづけた。松本の旅館で小憩ののち、ふたたび待たせてあった車に乗り「美しが原」への山路を登って行った。上高地は一五00メーター、ーの高原地帯である。名にしめす通り美しが原は春から秋へかけて、咲くので有名だが、この日はすでにリンドウの花も枯れがれとしており、まれに残花をみるのみだったが、淡紅色のヤナギランの花とマツムシソウの淡紫色の花が群落をつくって咲きつづいていた。美しが原は約二000メータ高山植物の美しが原風景ヤナギラン(左)マツムシソウ(右)10

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