テキスト1975
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おみなえし•あじさい女郎花(オミナェシ)と紫陽花(アジサイ)は、ともに日本の古い花である。万葉時代から説話の中にもいろいろ伝えられており、ことにオミナェシに「女郎花」という漢字が使われているのに対して、またいろいろの説がある。ジョウロウとは女郎ではなくて、万葉時代宮中に仕えた貴婦人の「上脳」の意であるという説、またこれと反対には謡曲の文章に「名をきいてだに偕老をちぎるといえり」「風の吹くにつれてあなめあなめ」などの言葉があり、これは女郎花の意味に使ってある。また、オミナェシの咲く黄色の花をたとえて「むせる粟の如し」とも述べられており、オミナメシと発音するその「メシ」に通ずるのではないかとの説もある。オミナェシに「敗醤」という字が使われた時代もあり、これは中国の漢名らしいが敗醤とは腐った醤油という意味で、その香りからきた附名らしい。とにかく「女郎花」とはやさしくもあわれな名だが、実際、山で咲く野生のオミナエシをみると、風にゆれ動くさまは「風の吹くにつれてあなめあなめ」という表現がびったりする詩情を感じるのである。一昨年の夏、軽井沢で数日を過したことがあったが、あの辺はオミナェシの多いところで、高原に咲く女郎花はリンドウ、マツムシソウなどに入り交って楚々として優しく露にたふるる女郎花うずら鳴くてふ野を過ぎてその名も高き信濃なる浅間の山に来りけ古い表現だが、この詩にあるような野生の女郎花の情紹を感じるのであった。このごろ花屋でみる女郎花は園芸品種というのか、茎が柔かく太い種類が多く見うけられ、花もたっぷりとついて見た目には美しいが、オミナェシのやさしさ、情紹が少しも感じられない様な新種が出廻っている。ロングスカートのオミナェシといった感じであって、詩情もやさしさも全然感じられない。園芸も発達すると悪い意味で花の個性を変えてしまう様な一例といえる。オミナェシり児玉花外花・オミナェシアジサイ器・ため塗盆(直径50cm)8

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