テキスト1975
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漆の花器は淡泊な感じの軽やかな花器である。日本的な情緒のある風雅な趣味、そんな気持の器物だが、傷つきやすく花器として常に実用的に使えるものとはいい難い。それ自体手ぎれいな器であるから、花器として作られているものでも、陶器を使うようにいつも自由に使うには不適当ということになる。しかし、黒い漆の花器に白菊を一、二本挿したような清楚ないけばなは陶器にない繊細な美しさを見ることが出来る。日本趣味の中の意匠的な器物というのが漆器の味わいであろう。したがってこの花器には、それに調和する風雅な花、軽やかに透きとおるような美しさのあるいけばな、又は淡泊な粋な好み、こんな方向の花を活けることが望ましいのである。花材も主として日本種の草花がよく、木ものでも(なつはぜ)(さんきらい)(ゆきやなぎ)(こでまり)り1g] (ぽけ)程度の細いかんぼくがよく、椿、ぽたんのような大輪花は首みじかく挿すのがよい。洋花でも放い趣味の蘭花の類、バラ、カラジュームの葉、クレマチス、洋種すいせん、のように軽やかに静かな感じの花が好ましい。漆器の中へ直接、水を入れるよりも中筒を使ってそれに水を入れて活けると花器をいためることがなく、その辺の心くばりが必要である。ことに花器の手入れをよくすること、道具仕舞いのとき水分をよく拭きとり箱におさめることも必要である。とにかく似つきやすい花器であるから活ける際にも、軽く細い丁字留を使うか小型の剣山を入れて花を挿す。直接花器にくばり木をかけない様にすることである。以上の様にいろいろ注意を要する花器であるから、普通に常什として使いつづける、という花器ではなく、時々とり出して活ける程度の弱々しい花器と考えれば誤りはない。また、透きとおる様な美しい花器であってこそ、漆器の味わいも感じられるし、その特徴を活かして花を入れた場合、うき立つ様な花の美しさを感じるのも漆器のよさということが出来るのである。水盤の形のある漆器、広口の壷様式の漆器など、剣山を使って花を挿すときは、剣山の下部に薄い布又はビニール布などを敷いておくこと、ことに漆器のいけばなは永い時日の問、活けて四くのには不向きの花器であり、一日二日程度で花をとり去る程度にするのがよい。漆器の中で花器に使えるものというのは意外に少ないものである。ことに花器として作られたものは少ないし、花を一、二本挿す程度の小品ものはあっても大きく挿ける花器としての漆器はほとんどない。これは漆器が主として食器として作られるものが多く、また花器として適していないということにも原因しているのだろうと思う。私の手持ちの花器の中でも少ないのだが、このテキストにある漆の花器は、かなり形の変ったもの、花を活けて活けやすいものを選んで集めたものだがさて、選び買うとなるとかなりの期間がないと、中々集まらないものである。いつとはなく買いためる様な気持で、形の変ったもの、花の活けやすいことを考えて集めるのがよい。器・黒漆の手桶花・ヒマワリ枯花ヒマワリを逆さにして形づくっている。渋く美しい色彩カラジューム2

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