テキスト1975
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百合の花には多くの種類がある。山に咲く野生秤も多いが、その中にこの姥百合(ウバユリ)はその名にあるように佗びしい感じの花である。七月から八月へかけて山地の木蔭に咲き、渓流に近い草むらの中に忘れられたように一本二本と佗びしげに咲いている。花はかなり大きいがにぶい緑白色、六つの花弁がひっそりと中関き程度まで咲き、そのまま弱々しく果てる。いかにも老女の佗びしさを感じるような隠逸の風情がある。この百合は、太い花茎に五、六個の花をつけ、葉は根もとより広葉が出て、花の咲くころには朽ち呆てる。育てたわが子が生長するころには花の咲くのを見ることもなく、すがり果てる老女の佗びしさにたとえて、もの、という。私が見たのは、吉野の蛇ケ谷、洞川あたりの森の中、また十和田湖附近の奥入瀬川の渓谷、京都北山芹生(せりょう)の渓谷など、主として渓谷の水辺地帯に見かけたことが多い。人目をひくような明るさもなく、美しさもない忘れられたような百合の花で、それだけに詩情のある花ともいえるのである。この七月、珍しくも花屋の店で姥百合の花の開花を見つけたので、ーカリ、けいとうをつけたこの盛花は、老女の花には少し不調和かも知れないが、その情緒から考えると、フジバカマ、シャガの葉など、静寂な感じの花が適しているように思えるのである。「うばゆり」と名附けられた買ってきて盛花に活けた。ユウバユリケイトウユウカリ12

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